「5Gでライブ中継」が現実に? スマホみたいな5Gトランスミッターで実現する映像の未来

AI要約

2024年3月に発売された5Gトランスミッタ、ソニー「PDT-FP1」は、プロ用機として設計されたデジタル一眼「α」のアクセサリーである。

この特別設計の端末は、5G中継における課題や解決方法、5Gネットワークのスライシング技術について紹介されたウェビナーも開催されており、商業コンテンツへの利用可能性が示唆されている。

さらに、ドイツテレコムの5Gスライシングソリューション「ライブビデオプロダクション」は商品化され、帯域幅などの予約システムを通じて利用可能となっている。

「5Gでライブ中継」が現実に? スマホみたいな5Gトランスミッターで実現する映像の未来

 2024年3月に発売された5Gトランスミッタ、ソニー「PDT-FP1」をご存じだろうか。デジタル一眼「α」のアクセサリーとして販売をスタートし、カメラ量販店でも購入できることから、コンシューマー機のような扱いになっているが、実際にはプロ用機である。

 見た目はスマートフォンのようで、6.1インチOLEDディスプレイを備えたAndroid端末でもあるのだが、USB-C端子経由で特定のソニー製カメラと有線接続できるほか、HDMI A入力もある。内部に256GBのストレージ、1TBのSDカードが内蔵でき、カメラ映像を収録できる。またnanoSIMとeSIM2系統の5G回線をそなえ、スループットが落ちてきたら自動的にもう一方に切替える機能を持つ。カメラスルーもしくはストレージ内の動画をクラウドにアップロードできるという、専用端末だ。

 背面にヒートシンクやファンなど、PC並みのエアフローを備えており、マウント用のネジ穴もある。スマートフォンの技術を使いながら、プロのニーズを満たす特別設計だ。

 5Gネットワークもかなり普及してきており、多くの人は不満なく使えているとは思うが、ではこの一般5G回線を使って商業メディアでライブストリームを送りましょうとなると、それ本当に大丈夫か?という話になる。その時々のトラフィックの状態によって、画質が低下したり映像が途切れたりするのでは、とても商業コンテンツには利用できないからである。

 4月頭にSONY Europe主催で5Gソリューションに関するウェビナーが開催された。ここではソニーとドイツテレコムの長年のパートナーシップによる、5G中継の取り組みが紹介され、上記のような課題の解決方法が示された。

 ポイントは、5G回線のスライシング技術である。これは物理ネットワークを仮想的に分割することで、ライブストリーミング専用領域を確保するというもので、2019年にはソニーと協働で初期のスライシング技術を用いて、ベルリンマラソンの模様をテレビ中継することに成功するなど、実験と実績を積み上げてきた。

 こうしたドイツテレコムのライブ中継向スライシング技術は、Linux Foundationのオープンソースプロジェクト「CAMARA Project」として、API化されている。CAMARA APIは、同一通信会社内のネットワークにとどまらず、他の事業者をまたいだり、国をまたいだりしても回線のクオリティーが維持されることを目的として開発が進められている。

 このあたりは他国と陸続きであるヨーロッパならではの発想とニーズがある。これは1つの通信会社がこのAPIをサポートしているだけでは機能せず、多くの通信会社が対応する必要がある。そのためのオープンソースプロジェクトでもある。

 さらにこうしたデータ通信は、APIと5G回線があるだけではどうにもならない。商業コンテンツ、例えばスポーツ中継番組として提供するには複数のカメラが必要であり、スタジオや現地レポーターとのかけあい、実況中継・解説といった音声、スコアを表示するCGなどをクラウド上で組み合わせる必要がある。これらは映像を低遅延・高圧縮するハードウェアエンコーダー、近年ソニー傘下となったNevionの管理技術であるVideoIPass、クラウドスイッチャー「M2Live」など、複数の技術の組み合わせで初めて実現できる。

 5Gによるライブストリームは、画質に重点を置くか、それとも低遅延に重点を置くかを、その都度選択できるようにしなければならない。独占中継の場合は、リアルタイムから何秒遅れてもあまり問題にならないが、例えばテレビとネットが同時中継する場合、ネットの方が10~30秒遅いということになれば、有料放送の場合は大きな問題となり得る。

 現在ドイツテレコムでは、こうした5Gスライシングソリューションを「ライブビデオプロダクション」として商品化している。ユーザーはオンデマンドで、いつどこでどれぐらいの帯域幅という形で予約することができる。