情シスが向き合うSaaSとデバイス管理の課題 ジョーシスとマネーフォワードiが語り合った

AI要約

SaaSとデバイス管理に関するジョーシスとマネーフォワードiの対談を要約すると、企業の情報システム部の課題や現状に焦点を当てています。コロナ禍で増え続けるSaaSやビジネスのスピードに追いつかないデバイス、情シスのコア業務とノンコア業務、そしてジョーシスとマネーフォワードiが提供するソリューションについて話が展開されています。

ジョーシスは中小企業から大企業までを支援し、SaaS管理やデバイス管理といったサービスを提供しており、グローバル展開も進める方針です。一方、マネーフォワードiはAdminaを立ち上げ、SaaS管理やデバイス管理を通じて企業の課題を解決し、AIの活用などを推進しています。

現場のニーズや季節性などを踏まえたジョーシスとマネーフォワードiの取り組みや考え方が紹介され、情シスのコア業務やAI活用への展望が示されています。

情シスが向き合うSaaSとデバイス管理の課題 ジョーシスとマネーフォワードiが語り合った

SaaSとデバイス管理を提供するジョーシスとマネーフォワードiの二人が、企業の情報システム部の課題や現状について語り合った。コロナ禍で増え続けるSaaS、ビジネスのスピードに追いつかないデバイス、事業者が提供できるノンコア業務の効率化、そして情シスにとってのコア業務とは? (モデレーター ASCII編集部 大谷イビサ 以下、敬称略)

 SaaSとデバイス管理を提供するジョーシスとマネーフォワードi の二人が、企業の情報システム部の課題や現状について語り合った。コロナ禍で増え続けるSaaS、ビジネスのスピードに追いつかないデバイス、事業者が提供できるノンコア業務の効率化、そして情シスにとってのコア業務とは? (モデレーター ASCII編集部 大谷イビサ 以下、敬称略)

 

一人情シスからエンプラまでを支援するジョーシス グローバル展開も

ASCII編集部 大谷(以下、大谷):まずはジョーシスさんの事業説明と高山さんのプロフィールを教えてください。

 

ジョーシス SVP of Japan Business 高山清光氏(以下、高山):ジョーシスは2022年2月に設立したばかりの会社で、当初はスモールビジネスの1人情シスを助けるという目的で、SaaS管理を手がけるサービスを開始しています。その後、それだけだと情シスは助けられないということで、デバイスのキッティングなどを含むITアウトソーシングやヘルプデスクなども展開しています。現在は中小企業の1人情シスにとどまらず、大手(エンタープライズ)企業の課題解決に向けてサービスを提供しています。

 

私自身は大手製造業の常駐SEからキャリアをスタートし、その後はB2B SaaSのビジネスを長くやってきました。本社でも100人くらいの規模から入社して、日本法人を立ち上げるところから始めていました。5社くらいやっているのですが、一番長かったのはBoxですかね。一方で、15社くらいの社外取締役や顧問を兼任しており、ジョーシスもその流れで事業展開に関わらせてもらいました。その後、資金調達の目処が立ち、事業にアクセルを踏む段階で、フルコミットさせてもらうことにしたのが2022年ですね。

 

大谷:外資系企業の経歴が長いと思うのですが、なぜ日本のスタートアップに飛び込んだのですか?

 

高山:長らく日本人として海外に飛び出す日本のスタートアップに関わりたいと思っていました。その流れでいろいろな会社の社外取締役や顧問を務めていたのですが、どうしても規模が小さい。数十億円規模の資金調達は確かにすごいけど、どこまでできるかという限界もわかってしまうんです。

 

でも、(ジョーシスがシリーズBで実現した)135億円規模の調達になると、見える視座がけっこう違う。海外の事業計画も本気度が見えました(関連記事:135億円を資金調達したジョーシス、企業のITガバナンス崩壊を食い止められるのか?)。日本の事業を世界規模で展開するという僕の夢も叶うかもと思い、フルコミットさせてもらうことにしました。

 

大谷:高山さんは日本事業を見てらっしゃいますが、ジョーシスとしてはグローバル展開も進めているんですね。

 

高山:もともと英語版も用意されており、英語圏でも使われていますが、現在はアジア・パシフィック40カ国の展開を重視しています。現地パートナーと連携して、日本企業の現地法人だけじゃなく、ローカル企業の情シスの課題に応えたいと思っています。

 

300以上のSaaSを使っていたマネーフォワードの課題解決をユーザーへ

大谷:次にマネーフォワードiの今井さん、「マネーフォワードAdmina」(以下、Admina)についても教えてください。

 

マネーフォワードi 代表取締役社長 今井 義人氏(以下、今井):Adminaの立ち上げは2021年11月で、ジョーシスさんと同じく、SaaS管理プラットフォームとしてスタートしています。ほぼ同時期に同じようなことを考えていたのかもと思い、とても親近感が湧きました。開発も海外メンバーが多いので、そういう部分でも近いのかなあと。

 

大谷:もともとはマネーフォワードのSaaS管理からスタートしているんですよね。

 

今井:はい。2020年当時のマネーフォワードって、300くらいのSaaSを使っており、もはや何かどのくらい使われているのか、訳がわからなくなっていました。これをなんとか管理しようということで、CIO室主導でSaaS管理のプロジェクトがスタート。そして、他社も同じ課題を抱えているはずだから外販しようということで、マネーフォワードiという子会社としてスピンアウトしました。

 

私自身は外資系企業の日本法人からキャリアをスタートさせたのですが、自らプロダクトを作りたいということで、マネーフォワードに転職してきました。5年前くらいまでは経費精算のプロダクトを立ち上げ、3年前からマネーフォワードiでAdminaを手がけています。

 

大谷:Adminaの最新動向を教えてください。

 

今井:SaaS管理からスタートし、昨年からはデバイス管理もスタートさせました。最近では「Vendorプラン」でコスト削減プランを始めたり、デバイスのキッティングや棚卸しプランも追加したりと、情シスの管理OSみたいなポジションで攻めていこうという流れです。

 

コロナ禍と新規事業の増加でスピードを求められるようになった

大谷:まずはお二方が現在の情シスが直面している課題をどのように把握しているか教えてください。

 

高山:現在注力をしているマーケットの1つで引き合いを多く頂くのが1,000名以下の企業でIT管理者が一人という規模感の会社だと、やはりコロナ禍でITが大きく変わったという実感をお持ちです。テレワークが普及し、マルチデバイスに対応するという点もあるのですが、コロナ禍でスピードや迅速性を要求されるようになったというのは大きいと思います。

 

今までは中央集権的にIT部門が半年かけてすべてのデバイスやサービスを検証し、現場に卸していくという感じでしたが、もはやそれだと市場の移り変わりに乗り遅れてしまう。現場のニーズにクイックに対応するためには、スピードを優先して、現場でのSaaS利用を許容していくという流れはあると思います。

 

大谷:従来型の手堅い進め方だと、どうしても迅速さに欠けてしまうんですね。

 

高山:あと多くの企業が本業以外の新規事業を手がけなければならないという現状です。人口減少で国内の市場がシュリンクし、海外でも激しい競争にさらされる時代なので、たとえば鉄道会社でも駅ナカの小売ビジネスやWebコマースは必須となっています。新規事業を立ち上げでは、ビジネスにあったシステムを構築するのに時間がかけられないので、事業部単位でSaaSの利用を許可していく必要があります。

 

この結果、SaaSがどんどん増えてしまい、誰がなにを使っているのかわからない状況が生まれてしまった。しかもコロナ禍で転職も増え、デバイスのキッティングや返却、回収などの手間も増えるようになり、さらに管理が漏れるようになってきました。こうしてSaaSやデバイスの管理カオスが蔓延した結果、そのニーズを踏まえたわれわれのようなプロダクトが生まれたのだと思います。

 

大谷:今井さんは情シスの現状をどう捉えていますか?

 

今井:先日、情シスをメインにしたユーザー会を実施したのですが、すごく印象的だったのは、「会社の御用聞きになってしまっている」という声でした。電気が通っているものはすべて情シス担当みたいな感じで、コピー機から、パソコンから、なんでも任されてしまうと。

 

私は情シス向けのAdminaの前に担当していたのが、経理向けのサービスだったので、経理の方の話はよく聞いていました。経理のようなバックオフィスって、間接部門なのでコストも厳しいし、売上を立てていないという引け目を感じている方もいます。でも、情報システム部門はもっと引け目を感じている人が多いと感じます。軽視されがちな情シスのポジションを、なんとか改善したいなと思う気持ちは強いです。

 

御用聞きに甘んじる情シス クリエイティブな情シスとは?

大谷:情シスの人たちって自らの業務をどう捉えているんですかね。

 

高山:大企業だとITやりたい人が情シスにいるわけではない。数百人規模の情シスのメンバーに聞いたら、ITやりたい人は1桁だったという話もあります。本当はマーケティングやりたかったとか、DXやるにしろ、「ノーミスでつつがなくやりたい」という人が多かったわけです。

 

一方、中小企業の情シスはITをやりたくて入る人が多い気がします。今井さんのお話ししているような御用聞きは現場に喜ばれるし、得意なので手放さない。とはいえ、経営者の意向は違っていたりします。ノンコア業務なので、本当はもっと攻めのIT、今で言うDXを担当してほしい、でも一人しかいないからなかなか外せないと思ったりします。

 

大谷:なるほど。守りの業務にモチベーションを感じる方も多いわけですね。

 

高山:現場のリクエストに応える御用聞きは楽な仕事という見方もあります。でも、私はこの対談を通じて訴えたいのは、この人手不足の中、ノンコア業務に注力していていいのか、という疑問です。

 

大谷:クラウドにしろ、AIにしろ、面倒な作業はシステムに任せ、人間は本来やるべきクリエイティブな業務に専念できるというのが、一般的なベンダーのメッセージです。その点、情シスにおけるクリエイティブな業務ってなんなんでしょうか?

 

高山:昔の情シスって、サーバーの搬入・ラッキングとか、物理的な作業が多かったんです。でも、クラウドの時代になって、こうした物理的な作業は減ってはいます。無線LAN APの設置や入退社にひも付く設定みたいな作業がメインじゃないでしょうか。

 

だから、空いている時間をサポートに当てるみたいな情シスが多いんですが、こうした御用聞き的な仕事はどんどんなくなっていくと思います。じゃあ、今までの情シスにDX的な攻めの業務ができるかというと、リスクも多いし、事業部ほどの業務の解像度を持っていません。こうしたジレンマにさいなまれているのが現状だと思います。

 

大谷:同じITと言っても、リスキリングみたいなことが必要というわけですね。

 

今井:クリエイティブな業務になるかはわからないのですが、「従業員によい環境を提供したい」と考えている情シスの方は多いなと思います。ITはもちろん、オフィス含めて、生産性を上げる環境を構築したいという声ですね。

 

あと、最近はAIの活用ですね。AIを業務にうまく活用したいんだけど、なかなか難しいというのはどの会社も似通っています。AIに関しては従業員の関心も高いし、たぶんですが、経営者のお財布もゆるい(笑)。こういう課題は、もっと情シスがリードしてもよいのでは?と思っています。

 

利用状況が見えないのは部門間の情報の分断

大谷:ジョーシスさんって、大企業(エンタープライズ)と中小企業を明確に分けていると思うのですが、両者のITの違いはなんだと思いますか?

 

高山:中小企業は明確に「効率化」がキーワードだと思います。リソースが少ないので、あれもこれもやっていられない。少ない人数で効率的に管理するのが目的です。

 

一方で、リソースがある大企業は、ITガバナンスを高めるのが目的。私たちは「唯一の真実はなんですか?」というフレーズでアピールしていますが、必要なシステムやサービスはすでに整っているけど、「システムはどうなっていますか?」への答えがみんな違う。ITが持っている台帳と現場のリスト、どちらを信頼したらいいのか?という話になるので、会社の規模が大きくなればなるほど、正確な数字を把握することにこだわる気がします。

 

今井:私もこの役職となって、「いまどれくらいSaaS使ってますか?」という質問を数限りなくお客さまにしていましたが、正確な数字をあてた会社はありませんでした。当社も、最初はSaaSの利用個数が過小評価されていて、「100だと思ったら、がんばって調べたら300だった」という経緯です。

 

大谷:なぜ利用数は把握できないんでしょうか? 私のイメージだと、有償版のSaaSだったら、なんらかのお金のやりとりは発生しているはずで、会社から見えないSaaSって使うのは難しいと思うのですが。

 

今井:部門間での情報の分断みたいな話だと思います。情シスの管理しているSaaSはもちろん把握しているのですが、それ以外のSaaSは、部門ごとの契約なので、よくわかりませんという話です。昔と異なり、今は営業部なり、マーケティング部なり、現場部門でバンバンSaaSを入れちゃいます。

 

大谷さんのおっしゃる「お金の流れ見たら、わかるでしょ」も確かにその通りなんですが、情シスと経理って普段から連携しているわけではないので、ここも情報が分断しています。

 

高山:うちのお客さまだと、全社員が使うようなGoogle、Microsoft 365、Zoom、Slackみたいなサービスは、当然情シスからも見えています。でも、たとえばChatGPTであるとか、DeepLみたいなサービスなどは各部門で個別に契約していたりします。

 

契約アカウントが多いわけでもなく、特にブロックもしていないので、どんどん増えてしまう。でも、把握していないと、重要な情報漏えいにつながります。把握しないと、手も打てないので、なにをどれくらい使っているのかをまず把握することがとても重要です。

 

情シスの悩みは季節変動がある

大谷:ユーザーって、どういう課題からそれぞれのプロダクトに行き着くんですか?

 

今井:「SaaS増え過ぎちゃったんです」も、「コスト下げたいです」もありますね。ただ、コスト下げたいですは、情シス以外の経営企画が多いですね。情シスの方が転職して、またAdminaを入れてくれるというパターンもあります。

 

サービス立ち上げたときは「SaaS管理ってなんぞや」みたいな話からスタートしていましたが、この半年でだいぶ認知度が違った気がします。課題も明確になっており、いきなりSaaSの利用診断からスタートするみたいなことも増えました。

 

高山:情シスの悩みは季節変動があると思っていて、最近は入退社というキーワードも増えています。期末にごっそり人が辞めてしまったので、デバイスのアカウントやデータ削除を済ませないとならないけど、4月に20人くらい入ってくるので、セットアップも済ませておかなければならない。こういう課題感で、たぶん「SaaS 管理」や「デバイス 管理」を検索した結果、ジョーシスなり、Adminaさんにたどり着くんだと思います。

 

大谷:確かに情シスの仕事って、そういう季節性は大きいですね。

 

高山:しかも入社はある程度読めるんですが、退社は読めないんですよ。だから、大量の人が辞めると、少ない人数で大量のデバイスのキッティングをやらなければならないんです。

 

ただ、面白いのは、ジョーシスなり、Adminaさんなり、いずれかを検討される方は、自分のキャパシティに限界を感じているので、真剣に検討して結局どちらかを導入してもらえるんです。どちらかしか検討していない方、一見の方は、「これなら自分で作業できるな」と思ってしまうらしく、導入しない。これがデータで出ています。

 

今井:それは面白いですねえ。

 

高山:同じようなトピックで増えているのは、建設会社の事例で、建築現場のプレハブにあるデバイスをコスト含めて管理したいというニーズですかね。こうした現場って、人事部のデータベースに載ってこない非正規雇用やアルバイトの方が働いているので、誰がデバイスを使っているのか把握できません。

 

大谷:なるほど。本社から遠い現場の状況は管理できないんですね。

 

高山:われわれからすると、デバイスというとPCやスマホなんですけど、ユーザー企業にとってはアルコールチェックのデバイスも含めて全部なんです。PCだったら、スプレッドシートでなんとか管理できているけど、その他のデバイスとなるともうお手上げというパターンですかね。

 

大谷:なるほど。AdminaはSaaS管理、ジョーシスはデバイス管理というイメージがあるのかもしれません。

 

いいSaaSを使って、循環してもらう コスト削減だけが目的じゃない

大谷:情シスの課題感に対して、ジョーシスはどのようなアプローチで解決していますか?

 

高山:今まではどの会社も、なんらかの方法でデバイスやSaaSの管理はやってきたと思うんです。これに対してジョーシスは、人を中心とした管理台帳をまず作ります。先ほど例に出した1週間だけの期間雇用の方も、人事データベースには載ってないでしょうが、働いていたのは事実だし、デバイスも使っていたはずです。このデバイスはPCも、スマホも、アルコールチェッカーも含みます。長かろうが、短かろうが、とにかく働いている人を中心にデバイスの管理を行なうというのが、われわれの提案です。

 

大谷:Adminaの場合はどうでしょうか?

 

今井:Adminaの場合、まずはSaaSの見える化ですね。先ほどの部門内での情報のサイロ化で、見えるかを実現するのもけっこう大変。情シスも会社全体をきちんと把握したいはずですが、各部門に聞きに行くのも面倒です。「マネーフォワード クラウド」のラインナップにおいて経理部門向きプロダクトをやっている立場上、情シスと経理をつなぐことも可能です。だから実現すると7割くらいクリアで、お客さまもかなり満足されます。

 

その次は最適化のフェーズで、ここでコスト削減の話が出てきます。ただ、われわれもSaaSベンダーなので、SaaSを減らしたり、SaaS市場を小さくするのが目的ではありません。単純に無駄をなくし、どうせならいいSaaSを使ってもらいたい。使わなくなったら解約できるのがSaaSのいいところなのだから、いいSaaSを使い続ける循環を実現したい。だから、Adminaでそうした循環を支援し、お客さまが最適化、再投資まで進めたら、満点だと思っています。

 

大谷:なるほど。「SaaSを減らして、コストを削減するツール」と考えていたのですが、それが目的ではないんですね。

 

今井:先ほど話したクリエイティブな業務という話に近いのですが、今後どのようなSaaSを導入するか、どう運営していくかを考える仕事って、情シスにとって戦略立案とも言えるコア業務だと思ってます。会社の進む方向と課題、それに対してのソリューションという位置づけなので。われわれも可視化、最適化にまで進んでいきたいです。

 

情シスが把握できれば現場のITはシャドウITじゃない

大谷:先ほどはデバイス管理の話がメインでしたが、SaaS管理に関してはジョーシスはどう考えているんでしょうか? 

 

高山:意図せず増えてしまうSaaSって、いわゆる「シャドウIT」なんですけど、逆に情シスから検知できればシャドウITじゃなくなるはず。いち早く把握すべきというのが、われわれのスタンスです。

 

禁止されているのをかいくぐって使うのもシャドウITだけど、必要だから使い続けているけど情シスから見えないのもシャドウIT。いずれにせよ、シャドウITでありながら使い続けるのって、現場の意思だと思うんです。こうした現場の意思を止めるのは簡単かもしれませんが、やっぱり使い続けている理由があるはずです。

 

大谷:確かに。そんなに現場が使いたがっているなら、情シスとしては検証して、追認してもいいくらいですよね。

 

高山:だから、われわれはそのSaaSの評価まで踏み込むべきだと思っています。世界各国でレギュレーションが異なるので、それぞれの国で安全かどうか。単純に使っているSaaSを検知できるだけじゃなく、使い続けても大丈夫なのかまでをセットで提供していきたいです。これにより、「シャドウだったITがきちんと使われている」というところまで進めたらいいなと思います。

 

大谷:なるほど。長らく「シャドウIT=悪いもの」と考えてきたので、とても新鮮な意見だと思いました。

 

高山:どのSaaSも一番危ないのはコンテンツの共有なんです。だから、アクセス権限やパスワードの有無など、こうした共有の機能をきちんと評価してあげれば、情シスにとってもわかりやすいし、ユーザーも安心して使えると思います。

 

情シスのコア業務とはなにか? 学び、発信し、啓蒙していきたい

大谷:では、最後に今後の展開について教えてください。まずは今井さんから。

 

今井:目の前にある作業の手間は、Adminaでどんどん解消していきたい。これによって情シスにはコア業務に専念してもらいたくて、その1つがAIの利活用だと思っています。

 

現在ってSaaSの開発コストって、ものすごく低くなっています。私も実際にアプリを作りますけど、確かにとても簡単に作れてしまう。将来的にはSaaSはなくなって、ユーザー自身が自分でスクラッチし出すのではないかと言われています。これは現実にあり得る世界だと思っています。だから、われわれも、ユーザー企業も、よりAIを活用して、付加価値の高い方向に行かなければという危機感があります。

 

大谷:ジョーシスさんはいかがでしょうか?

 

高山:私はもっといいSaaSを使ってもらいたいです。先ほど話したとおり、昔は「シャドウIT」としてSaaSの利用ってブロックされていましたが、今後は使いたいSaaSをどんどん現場から上げてもらうような流れがよいと思っています。これを実現するため、SaaSをきちんと把握しつつ、リスクをマネジメントできる存在になりたいです。

 

確かにツールで自動化が推進されると、ノンコアの情シスの「作業」は減り、DX戦略立案のようなコア業務に専念できるはず。とはいえ、コア業務ってなにという情シスは多い。そのため、われわれは「ジョーシスラーニング」というコミュニティ、「ジョーシスアカデミー」という教育プログラムという2つの学びの場を提供しています。プロダクトフォーカスだけでなく、情報提供というギブを続けていきたいし、Adminaさんとも協調して「コア業務」に専念しようというメッセージを発信していきたいです。

 

今井:ジョーシスさんのような存在はすごくありがたいです。確かに競合する部分はあるとは思いますが、お互い切磋琢磨でして、市場を盛り上げていきたいです。

 

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元