ミセスの音楽劇が映画化。『Mrs. GREEN APPLE // The White Lounge in CINEMA』から見える彼らの本質

AI要約

『Mrs. GREEN APPLE // The White Lounge in CINEMA』は、ミセスの究極のエンターテインメントを追い求める姿を映画化した作品である。

ミセスが開催した〈The White Loungeツアー〉の様子をライヴ映像と新規撮影シーンを組み合わせて編集した映画で、ツアーを通じて彼らが伝えたいメッセージが浮かび上がる。

バンドのエンターテインメント性の探求はフェーズ1から始まり、〈The White Loungeツアー〉を通じてより大胆な表現を模索する彼らの姿が描かれている。

ミセスの音楽劇が映画化。『Mrs. GREEN APPLE // The White Lounge in CINEMA』から見える彼らの本質

『Mrs. GREEN APPLE // The White Lounge in CINEMA』は、究極のエンターテインメントを追い求めるMrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)の本質が露わになった映画作品である。

本作はミセスが2023年12月から2024年3月まで開催したツアー〈Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”〉(以下、〈The White Loungeツアー〉)のライヴ映像だけでなく、新たに撮影したシーンとともに再編集されたもの。ゆえにツアーに参加できなかった人はもちろん、参加した人も楽しめる作品となっている。さらに、彼らが〈The White Loungeツアー〉を通じて伝えたかったことは何なのか。その答えのようなものが、本作からは見えてくる。

音楽劇というミュージカル仕立てのライヴ。舞台で披露される楽曲にはすべてこのツアーのために新たなアレンジが施され、メンバーは大森元貴を中心に芝居やダンスといったパフォーマンスを繰り広げながら、各楽曲の世界観をモチーフとした物語を紡ぐ――それが〈The White Loungeツアー〉だった。そして、ネタバレ禁止をはじめ白いアイテム着用というドレスコード、その他もろもろのレギュレーションが予め告知されたこのツアーは、開始早々からファンの間で物議を醸すことになる。ツアー終了直後に行った音楽と人2024年4月号のインタビューでも「〈こんなの観に来たわけじゃない〉って帰りたくなった人もいたと思う」と、大森はツアーを振り返っていた。それでも究極のエンターテインメントを追求する彼らにとって、音楽劇というスタイルは絶対に避けては通れない試みだったのだろう。

そもそもバンド形態であるミセスがその枠からはみ出るような動きは、フェーズ1の頃から始まっていた。2018年リリースのサードアルバム『ENSEMBLE』、そして2019年に開催された〈Mrs. GREEN APPLE 2019 HALL TOUR “The ROOM TOUR”〉(以下、『The ROOM TOUR』)がそうだ。前者はブロードウェイを想起させるエンターテインメント性が付加された作品で、後者は部屋を模した舞台セットの中でMCやアンコールもないまま進行するコンセプチュアルなツアーだった。バンドの首謀者である大森は、当時から多様なエンターテインメントの可能性を模索していたのだ。さらにフェーズ2開幕とともに、その動きはより顕著になっていく。ステージで本格的なダンスを披露したり、シアトリカルな舞台セットとともに楽曲の世界観を表現したり、テーマパークのアトラクションさながらの大掛かりなエンターテインメントは、彼らの認知度を高めた要因のひとつだと言える。

2024年2月6日、国際フォーラム ホールA。〈The White Loungeツアー〉の追加公演として後から発表された2日間の1日目を観た僕は、このツアーはミセスの楽曲そのもののあり方を彼ら自身がアップデートする機会であると受け取った。それまでエンターテインメントとドキュメンタリーが〈入れ子〉のように組み合わさることで成立していた彼らの音楽が、音楽劇というエンターテインメントに振り切ることで、新たな表現を手に入れようとしているのだと。これまで、ミセスの音楽はどれだけ多くの人に聴かれるポップミュージックの顔をしていても、その裏側にはつねに大森自身の内省が貼り付いたままだった。彼が抱える孤独感や寂しさ、あるいは無償の愛といった個人の感情。そういった内省に支えられた音楽であり続けてきた。しかし〈The White Loungeツアー〉の主役は彼らではなく、〈物語〉を紡ぐ楽曲そのものだった。メンバーは物語の登場人物としての役割を演じることで、初めてその楽曲を表現することができる。つまり〈The White Loungeツアー〉は、大森からミセスの音楽を解放する舞台でもあったのだ。

ゆえに今年7月に開催されたスタジアムツアー〈ゼンジン未到とヴェルトラウム~銘銘編~〉も、エンターテインメントに振り切ったライヴになるだろうと想像していた。主役は彼らの楽曲であり、大森をはじめとするメンバー3人はオーディエンスをとことん楽しませる道化に徹するものだと。だが実際はまるで違っていた。巨大なエンタメを飲み込むバンドのドキュメンタリーを見せつけられる2時間。生々しいバンドのドキュメンタリーに激しく興奮した。今もなお、彼らと音楽の関係性は互いの存在を縛りつけ合うようなものであることを知ったのだ。

そして今回の『Mrs. GREEN APPLE // The White Lounge in CINEMA』である。新たに撮影されたシーンがあるとはいえ、いわゆるツアードキュメンタリーなのかと思いきや、その予想は再び覆されることになる。まず、新たに撮影されたシーンの多さだ。実際の舞台場面ももちろん使われているものの、演者に寄ったカメラワークや細やかなカット割など、本作のために撮り直したシーンによって物語が展開される。聞けば、この映画のためにホール会場を借り切って舞台を組み、演者もスタッフも再集結して撮影に臨んだのだという。あの日、国際フォーラムの2階席から見たステージが、いくつものカメラでズームインとアウトを繰り返しながら再編集されていく映像は圧巻だ。もちろん大森をはじめ若井滉斗と藤澤涼架のメンバーも、物語を伝える〈役者〉として精巧なパフォーマンスを披露し、その様子を作り込まれた映像が丁寧に紡ぐ。3人が演奏だけでなくダンスや芝居で伝えたかった物語の解像度が、本作を観ることで格段に上がるのは言うまでもない。人生に福音をもたらす力が音楽にはあることを、自ら役柄を演じるだけでなく、さらに〈The White Loungeツアー〉自体を映画化することによって、明確に伝えたかったのではないだろうか。

振り子のようにエンターテインメントとドキュメンタリーを行き来する彼らの活動だが、それは今に始まったことではなく、そのスケールと振れ幅が大きくなっただけにすぎない。Mrs. GREEN APPLEとは、その振り子運動を行動原理にこれからも続いていくのだろう。それと同時に、この先も彼らの音楽がエンターテインメントに飲み込まれることはないと、本作を観た上で確信した。劇中、大森が「Soranji」をピンスポの明かりの中で唄う場面がある。その寂しげな姿に容赦なくカメラが迫るシーンは、物語を紡ぐ演者になりきれない彼が映し出されていて、とても生々しかった。やはり、ミセスはそういうバンドなのだ。

MOVIE『Mrs. GREEN APPLE // The White Lounge in CINEMA』

9月13日(金)より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかで上映中

【配給】松竹ODS事業部

【出演】Mrs. GREEN APPLE(大森元貴 若井滉斗 藤澤涼架)

【スタッフ】Planner and General Producer:大森元貴

      Director:井上和行

      General Director:ウォーリー木下

      General Creative Director:大田高彰

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