約12万円の「PS5 Pro」が示した、優遇されていた日本市場の“揺り戻し”に懸念

AI要約

PS5 Proの発表によりユーザーから賛否両論の声が挙がっている

PS5 Proの特徴や性能が向上しており、価格が高額だがその理由も考慮されるべき

日本市場における価格設定の変化や北米市場に対するSIEの新たな姿勢に注目

約12万円の「PS5 Pro」が示した、優遇されていた日本市場の“揺り戻し”に懸念

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)は、9月11日に公開したテクニカルプレゼンテーション映像にて、PS5のハイエンドモデル「PlayStation 5 Pro」(以下、PS5 Pro)を発表しました。

前世代機にあたるPS4も後にPS4 Proが登場しており、ハイエンドモデルのリリースはPlayStationの既定路線ともいえる展開です。そのため、今回の発表以前からPS5 Proの発売を待ち望んでいたユーザーが多く、今回の発表は待望の告知だったと言えるでしょう。

しかし、朗報と言い切るには少々複雑な一面もありました。特に「11万9,980円」(税込)というPS5 Proの価格は、ユーザーの間でも賛否が分かれ、波紋を広げています。

■「PS5 Pro」の特徴

PS5 Proの性能や特徴が、PlayStation.Blogにて明かされました。その主だった内容は、以下の通りです。

・GPUのアップグレード:PS5 Proに搭載するGPUは、現行PS5のGPUと比較してコンピュートユニットの数が67%増加しているほか、GPUメモリも28%の高速化を実現しています。これにより、ゲームプレイ時のレンダリング速度が最大で45%アップし、これまで以上にスムーズなプレイ体験が可能となります。

・進化したレイトレーシング:従来からさらに進化したレイトレーシング機能を追加したことで、よりダイナミックな光の反射と屈折の表現が可能となりました。これによって、現行のPS5と比べて2倍、ときには3倍の速度で光線を投射することができます。

・AIによる解像感向上:PlayStation スペクトルスーパーレゾリューション(PSSR)を導入します。本機能は機械学習ベースの技術を活用したAIによるアップスケーリングで、映像のディテールを大幅に追加することで、極めて鮮明なビジュアルを実現します。

このほかにも、「ゲームブースト機能の搭載」「Wi-Fi 7に対応」「VRR(可変リフレッシュレート)および8Kでのゲームプレイに対応」「SSDの容量は2TB」など、PS5と比較して全般的に性能の向上が見られます。

ただしPS5 Pro単体はデジタル対応のみなので、パッケージ版のゲームを遊びたい場合、別売りの「Ultra HD Blu-rayディスクドライブ」(11,980円 税込)が必要です。

■PS5 Proの価格設定に「高い」「手が出ない」の声

PS5 Proの性能を踏まえると、日本向けの希望小売価格「11万9,980円」も、ある程度妥当と捉えることができます。同程度の性能を持つゲーミングPCを構築する場合、12万円程度ではとても納まりません。

しかし一般的なゲーム機の価格と比べると、大きく上回る形になったのも事実。異例ともいえるPS5 Proの価格に、ネット上でも「高い」「手が出ない」といった声が目立っています。

確かに約12万円という価格は、家庭用ゲーム機に慣れ親しんだ人にとっても、衝撃的な金額です。値上がりしたばかりとはいえ、現行のPS5デジタル・エディション(72,980円)と比べても、4万円以上の価格差があります。性能が大きく異なるものの、この価格差に見合う体験が得られるのかどうか、ユーザー側が不安を感じるのも無理のない話でしょう。

ですが、「11万9,980円」という高額になった理由は、単純に性能だけの問題とは言い切れません。PS5 Proの価格設定から、いくつかの事情を推察することが可能です。

■海外向けとの価格差は?

PS5 Proの海外向け希望小売価格は、それぞれ「699.99USドル」「799.99ユーロ」「699.99ポンド」です。「1ドル=141円」「1ユーロ=156円」「1ポンド=185円」(記事執筆時点)で大まかに計算すると「98,700円」「124,800円」「129,500円」となり、北米だけが頭一つ抜けて安く、ほかは日本も含めて概ね同等の額に納まっています。

北米価格が安い理由のひとつは、税抜きで表記されているため。米国の売上税は州によって違いがあり、その全てを一覧にすると膨大になるため、税抜きの表記になったと思われます。

そのため、北米と日本での価格を比べる場合、消費税分を抜いて考える方が妥当でしょう。細かい端数は省略し、北米版を10万円、日本版を11万円(どちらも税抜き)として見ると、約1万円の価格差まで縮まります。

しかし、差が縮まったとはいえ、約1万円はかなりの違いです。「11万9,980円」という金額そのものよりも、「北米と1万円の差がある」という点こそ、重要視すべきポイントだと個人的に捉えています。

■これまで「恵まれていた」日本市場

PS5の価格設定は、これまで日本市場を優遇する傾向にありました。2020年の発売開始からしばらくの間、値上げされた際も含め、他国よりも日本の希望小売価格の方が安い状況が続きます。

その傾向は、2023年11月に発売された新モデルでも継続。この時発売された新モデルのPS5は、サイズの小型化・軽量化・SSDストレージを1TBに増量といったバージョンアップが行われ、ディスクドライブ搭載版の価格は66,980円に、デジタル・エディションは59,980円になりました(いずれも税込)。

当時、諸外国におけるPS5(新モデル)の価格は、欧州版は「549.99ユーロ(ディスクドライブ有)/449.99ユーロ(デジタル・エディション)」、イギリス版は「479.99ポンド/389.99ポンド」、そして北米版は「499.99ドル/449.99ドル」でした。

新モデルで価格が上がったものの、北米も含めた全地域と比べても、日本版のPS5が最も安い価格設定になっていたのです。

■値上げとPS5 Proの価格から伺える、SIEの新たな姿勢

しかし、日本市場が優遇されていた傾向は、2024年9月2日の改定で一気に風向きが変わります。ディスクドライブ搭載版は79,980円、デジタル・エディションは72,980円と、それぞれ価格が1万3,000円も上がりました。

そして、9月11日に発表されたPS5 Proの価格は、11万9,980円と大台を突破。他国と変わらない価格帯になり、北米とは約1万円もの差がつく結果を迎えました。

北米との価格差の理由は明言されていませんが、ユーザー側から推測することはできます。まず最初に連想するのは、長く続く円安の影響でしょう。

これまでも円安が続いていましたが、SIEは日本版PS5の価格をそれほど上げず、極力抑える姿勢を見せていました。ですが、それも限界に達し、直近の値上げに繋がったのだと思われます。PS5 Proも、今後さらに円安が進む可能性を危ぶみ、北米版よりも高い価格に設定したと考えられます。

また、今回の動きを見るに、SIEが北米重視の戦略に切り替えたという可能性も浮かび上がります。コンピューターゲームの市場は全般的に北米が強いため、以前からSIEは北米を重んずる傾向にありました。

そして今月実施された値上げやPS5 Pro発表を機に、日本向けの優遇措置を改め、北米への注力をいっそう強化する体勢に踏み切った──と見ることができます。少なくとも、それを予感させるだけのPS5 Proの価格差が、北米と日本の間に横たわっています。

前述の通り、日本版PS5 Proの価格帯は、北米以外の地域とほぼ同額です。その視点で見ると、「本来の価格に戻っただけ」とも言えますが、これまで優遇されていたのは紛れもない事実。そうした状況を踏まえると、今後の日本市場は、優遇からの「揺り戻し」を迎えるのは間違いないでしょう。

国内ユーザーの反応を見ても、先日の値上げやPS5 Proの価格について不満を述べる声が多く、北米との価格差を指摘する意見も複数出ています。

PS5本体の価格について、日本市場は円安でも長く優遇されていました。しかし、その時間も終わりを告げ、これから厳しい時代が訪れるのかもしれません。「揺り戻し」がどれだけの影響を及ぼし、いつまで続くのか。これから登場し、活躍するであろうPS5 Proの存在が、「揺り返し」を測るひとつの目安となりそうです。