山田尚子監督、新作映画『きみの色』言語化できない感情と真摯に向き合うきっかけに

AI要約

山田尚子監督の新作映画『きみの色』が公開された。監督はこれまで音楽と青春をテーマにした作品を手がけてきた。

物語は、子どもの頃から「色」を見ることができるトツ子と、美しい色を放つきみ、音楽好きのルイの3人が音楽を通じて心を通わせる様子を描いている。

作品は、思春期の複雑な感情や現代の若者の心のあり方をテーマにしており、自分の本当の姿を見つけることの大切さを伝える。

山田尚子監督、新作映画『きみの色』言語化できない感情と真摯に向き合うきっかけに

 数々の社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『けいおん!』(2009年)の監督を務め、『映画けいおん!』(11年)で長編アニメーション映画監督デビュー。長編映画3作目の『映画 聲の形』(16年)は、累計動員177万人、興行収入23億円を突破する大ヒットを記録。何気ない日常を瑞々しく描く映像センスが国内外から高く評価され、手がける作品が常に注目を集める山田尚子監督の新作映画『きみの色』が、8月30日より公開されている。

 『けいおん!』以来、山田監督が得意としてきた「音楽×青春」の物語。今を生きる思春期の少年少女が抱える秘密や悩み、繊細で傷つきやすい心を、音楽とともに丁寧に描いた。山田監督は鑑賞者に「うまく言葉にできなくてもいいので、自分で感じて受け取った気持ちを肯定してもらえるといいな」と願う。

 主人公は、子どもの頃から人が「色」で見える女子高校生の日暮トツ子。ある日、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・作永きみと、音楽好きの少年・影平ルイと知り合う。それぞれ誰にも言えない悩みを抱える3人は、トツ子のひと言により、バンドを始めることに。音楽で心を通わせていく3人のあいだには、友情とほのかな恋のような感情が芽生えていき…。やがて訪れる学園祭、初めてのライブ。観客の前で見せた3人それぞれの「色」、3人にしか出せない「音」が会場を包み込む。

 本作が生まれるきっかけの一つに、「思春期まっただ中の甥っ子」の存在があったと山田監督。「思春期の鋭すぎる感受性は変わらないものの、今の若い人たちの心はより繊細で、言葉の選び方も丁寧。人への配慮の仕方とか、いろんなことをよく考えているな、と。たくさんのレイヤーがかかって、本音が見えにくくなっているように思いました」。

 SNSが普及して、所属する集団や接する相手によって、“付与されたキャラ”を演じたり、自分自身でキャラを使い分けたりすることも、当たり前のように行われている。

 「今の若い人たちは、場の空気を敏感に読み取って、見せたい自分と本当の自分とのバランスを無意識にコントロールして、やりくりしているように思いました。○○キャラとか型を作ってしまって、その型にうまくハマれない自分が嫌になったり、型にハマっていることが窮屈に思えたり。型なんてじつはどうでもいいものなのに。何者にもカテゴライズされないことの尊さ、どんなあなただって魅力的だ、といったことを伝えられたらと思いました」。

 人が「色」で見えるトツ子の世界は「色」であふれているが、その色は「絵の具の色とは異なり、混ぜると白になっていく光の三原色。言葉で言い表せないもので、トツ子の場合は“色”だけど、第六感みたいなもので感じている人もいるかもしれない。それくらい感覚的なもの」。だからほかの人に理解されないことも多く、いつしか「色」のことを話せなくなった。それが彼女の秘密であり、自分の「色」だけが見えないことが悩みだった。