『南くんが恋人!?』と『南くんの恋人』(94年版)を比較検証 男女逆転以上の仕掛けの予感

AI要約

南くんが恋人!?は、身長が15cmになった恋人と秘密の同居生活を送る女子高生の物語。

内田春菊の漫画を基にし、岡田惠和が脚本を担当し、男女逆転の設定を楽しみつつも不協和音を描くファンタジーテイスト作品。

複雑な家族関係や今作の新たな展開に注目し、ファンタジー要素を活かした大胆な着地に期待したい。

『南くんが恋人!?』と『南くんの恋人』(94年版)を比較検証 男女逆転以上の仕掛けの予感

 『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)は、ある日突然、身長が15cmになってしまった恋人と秘密の同居生活を送ることになった女子高生の物語だ。

 湘南の海にほど近い街で暮らす堀切ちよみ(飯沼愛)は幼なじみでバスケットボール界のエース選手として将来有望な南浩之(八木勇征)と付き合っていたが、ある日、南の身体が小さくなってしまい、秘密の同居生活を始めることになる。

 原案は、内田春菊の漫画『南くんの恋人』(青林工藝舎)と、その続編にあたる『南くんは恋人』(ぶんか社)。

 『南くんの恋人』はある日、身長が15センチになってしまった堀切ちよみと恋人の南くんのラブストーリーで、これまでに4回ドラマ化されている。

 中でも有名なのが、高橋由美子と武田真治が出演した1994年版(テレビ朝日系)で、脚本は岡田惠和が担当していた。

 『ビーチボーイズ』(フジテレビ系)やNHK連続テレビ小説『ちゅらさん』、最近では『日曜の夜ぐらいは...』(ABCテレビ・テレビ朝日系)などの作品で知られる岡田は、長年テレビドラマの名作を書き続けてきたベテランだが『南くんの恋人』は、初の単独執筆作となる連続ドラマだった。

 岡田の作風は、『若者のすべて』(フジテレビ系)や『彼女たちの時代』(フジテレビ系)といった山田太一の影響下にあるシリアスな文学的作品と、『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)や『ど根性ガエル』(日本テレビ系)のような漫画やアニメのようなファンタジーテイストの作品に分かれる。『南くんの恋人』は、後者の作風を確立した原点と言える作品だ。そのため『南くんが恋人!?』の脚本を、岡田が担当すると知った時は、とても驚いた。

 今回は男性の南が小さくなり、女性のちよみに守られながら秘密の同居生活を過ごすことになる。男女逆転の設定は内田春菊の『南くんは恋人』を下敷きにしているのだが、物語は94年版『南くんの恋人』を忠実になぞっている。

 たとえば今作でちよみと南はバスケットボール部に所属している。94年版でも冒頭でちよみがバスケをするシーンが登場している。他にも、一方の母親が亡くなっている、交通事故にあって小さくなる、小さくなった恋人の服を作るために手芸部を訪ねる。といった94年版で展開されたシチュエーションを本作はあえてなぞっている。同じ状況をなぞっているからこそ、94年版との違いが際立っている。

 何より大きく違うのが、男性の南が小さくなったことで生じている南とちよみの関係だろう。ちよみにとって南は完璧な彼氏だったが、だからこそ「自分なんかが釣り合うのだろうか?」という不安を抱いていた。しかし、小さくなったことで南は庇護すべき「かわいい」存在へと変わっていく。対して、ちよみ無しでは生きられない無力なか弱い存在となってしまった南は、ちよみに感謝しながらも、庇護され「かわいい」と愛でられることに対して、「男」として強い抵抗感を抱えている。

 一方が小さくなることで庇護する強者と庇護される弱者という男女関係が極端な型で現れるのが『南くん』シリーズの面白さだが、ファンタジーとしてその関係を楽しいものとして描きながらも、不協和音の影がチラチラと見え隠れするのが、『南くんが恋人!?』の面白さだ。

 また、94年版でちよみ役を演じた高橋由美子を筆頭に『南くんの恋人』は、小さくなるヒロインを、その時代の若手アイドル女優が演じてきた。身体が小さいため性行為ができない恋人のちよみと南の関係が、女性アイドルと男性アイドルオタクの擬似恋愛、もしくは、触れることのできない虚構(フィクション)と生身の人間(現実)の比喩に見えるのも、ドラマシリーズの隠れた魅力だろう。

 対して、「男性アイドルと女性アイドルオタク」の比喩に見えるのが今回の『南くんが恋人!?』だ。劇中には男性アイドルのアクリルスタンドで楽しんでいる女性が登場するため、作り手も作品の構造に自覚的なのだろう。

 その意味でアイドルドラマの原点にして頂点と言える『南くん』シリーズだが、94年版を丁寧になぞっているからこそ、当時とは違う2024年版ならではの展開に後半は大きく切り変わるのではないかと感じている。

 中でも注目したいのが堀切家の描かれ方だ。「実は私の家族は複雑だ」とちよみは第1話で言う。堀切家は母親が再婚したことで人間関係がごちゃごちゃとしている。しかし、それでも彼らは家族として仲睦まじく暮らしている。

 この複雑な家族関係の描き方に、初めは戸惑ったが、思えば、複雑な人間関係を許容した上で楽しい日常を描き切る剛腕こそが『ちゅらさん』以降、確立した岡田惠和の最大の武器である。

 小さくなった恋人は、94年版では様々な理由で隠さねばならないか弱い存在だった。だが、2024年版の堀切家を見ていると、小さくなった南を新しい家族として平然と受け入れてしまうのではないかと思うのだが、果たしてどうなるのか?

 ファンタジーだからこそできる大胆な着地に期待したい。