にじさんじ随一のFPS強者、ローレン・イロアス 活動の軌跡から考える「エデン組とプロフェッショナリズム」

AI要約

にじさんじのVTuber、ローレン・イロアスの活躍や特徴について詳細に解説。

彼の優れたゲームセンスや洞察力、トーク力、そして復帰後のエデン組との活動に焦点を当てる。

エデン組としてのプロフェッショナリズムと共通したスタンスについても考察。

にじさんじ随一のFPS強者、ローレン・イロアス 活動の軌跡から考える「エデン組とプロフェッショナリズム」

 現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。

 育成プロジェクトである「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」からも新規ライバーがデビューし始めており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与え始めている。

 ここ数週ではローレン・イロアス、レオス・ヴィンセント、オリバー・エバンス、レイン・パターソンからなる「エデン組」についてフォーカスしてきた。最後に紹介するのは、卓抜としたゲームセンスとトーク力で見るものを魅了するローレン・イロアスだ。

■ゲームだけでなく“リアルの対人”でも洞察眼と言語力でリード

 ローレン・イロアスは2021年7月19日にSNSに初投稿し、22日午後に初配信、エデン組の2番手として配信した。

 短く赤い髪に襟足を伸ばし、黒いロングコート&警備服をピシっと着こなしたビジュアルで、デビュー前から非常に多くの女性ファンの目をひくこととなった。

 一般的な男性よりも低めの声でありつつ、低めな声の持ち主にありがちな声の太さはあまりないのが特徴。同期のレオス同様、喫煙者であることをあかしており、配信中に喫煙する事も見慣れた光景になりつつある。なお、デビュー時には紙タバコを愛煙していたが、現在では電子タバコも合わせて楽しんでいるとのこと。

 クールなルックスとは裏腹に、マンガ・アニメ・ゲームにも造詣が深く、配信上の会話ネタとして作品について語る、あるいは話題にすることが非常に多い。時折、オタクキャラを茶目っ気たっぷりに演じてみることもある。

 普段の配信では穏やかに話すことの多いローレンだが、誰かがボケたりふざけたりすればユーモアたっぷりにツッコミを入れ、その回転の速さ・ユーモアセンスを信用されてイジられることも多い。一般社会・一般常識もある程度備えていることもあり、ズレた人間が多めなにじさんじの同僚ら、あるいはFPS関係のストリーマーらに対して強気にでることが多く、先輩らをイジり返すこともよくある。

 友人らと楽しげにしゃべる彼は、ツッコミ役であり、イジられ役であり、時にイジり役と、振る舞い・立ち位置をコロコロと変えつつ、人との関係値・場の空気などを読みつづけながら話しを伸ばしていく。いわば“洞察力”に優れた男だ。

 彼はよく「オレはコミュ障だから……」と話すことも多いが、そう語るときはたいていの場合、相手とのコミュニケーションに気を揉んでいるときが多い。洞察眼に優れているからこそ、アレコレと気を回しすぎているように筆者からはみえる。

 また、勢いに乗ったときのハイテンションな様子・言動から、しばしば「芸人」と呼ばれることもある。少し話は逸れるが、バーチャルYouTuberのなかには、ある意味でウケや笑いは狙いすぎない、定型的なお笑い芸人らしい流れからはすこし距離を置いた面々も多くいた。特に黎明期のタレントにはそういった者も多く、これは多くの場合Live2Dを使ったアバターを使用しており、身体を使ったアクティブな動きがほとんど不可能だったからだ。

 そんな状況も現在にかけて少しづつ変わっていくこととなる。配信でトークをするとき、人と人との対話・コミュニケーションのなかでさまざまな語法をつかい、テンションの高いボケとツッコミを武器にお笑いを生み出す者が現れるようになっていった。

 そうしてトーク・会話がメインとなる配信のなかで、旧来的なネットミームを使う者、テレビタレント・番組のようなフリ・オチの流れを意識する者、常人では思いつかないような言葉選び・語気の強弱などで感情を巧みに伝える者、突飛なエピソードや価値判断を自然と滲ませる者……さまざまな方法で笑いを生み出す者が増え、独特の話芸をもった彼ら・彼女らに人気が集まるようになっていった。そしてもちろん、ローレンもその一人だ。

 そんな彼ら・彼女らを、職業としてでなく性質でもって「芸人」という言葉で評することが多いのだが、ローレンはどういったタイプの「芸人」だろう。あくまで筆者の観測範囲での話だが、常人では出てこないような比喩表現やワードチョイスに加え、昔ながらのネットミームを用いて「グフフフ……」と笑ってイジる彼は、にじさんじでいえば葛葉のようなキレ味を思わせることが多い。

 次からは、そんな彼がどのような活動をしてきたか。その無二たる特徴を取り上げてみよう。

■計り知れないFPS力で注目を集め続けていった4年間

 ローレン・イロアスといえば、やはり卓抜としたゲームスキルの高さが何よりの特徴であろう。特にFPS関係ではにじさんじの中でもトップクラスの実力を持っており、『Overwatch』『Apex Legends』『VALORANT』といったゲームでは、にじさんじ外のVTuber~バーチャルタレントら、さらにストリーマーらを加味しても上位に食い込むレベルである。

 デビュー時に「未プレイのFPSはほぼほぼない」と言い切っていたように、デビュー以前からFPSのやりこみは凄まじかったよう。デビュー時には『Overwatch』でTOP500、『Apex Legends』でプレデター、『VALORANT』でイモータルと、時の人気タイトル各種で上位ランクにいたことを語っていた。

 2024年7月現在に至るまで、ローレンのランクがそこまで到達してはいないがが、配信上で確かな実力を発揮しているので、それだけのポテンシャルがあることは明白だ。

 『Apex Legends』で数チームが入り乱れる乱戦となっている状況、『VALORANT』で敵の出入りを予想して集中しているシーンなどではかなりの確率でキルを取ることが多く、ノリにノッているときの押せ押せムーブは敵としてはかなり辛いようで、「ローレンがつよすぎ!」と対戦相手となった面々・見ていたリスナーがおもわず声に出すほど。

 たとえば、にじさんじでは『VALORANT』をつかったカスタムマッチが不定期で行われているが、ローレンが初めて出た際には、チーム分けによってはローレン側のチームが一方的に勝ってしまう流れになってしまい、しかもローレンが単独でキルを稼いでラウンドを取ってしまうほど。

 5人のチームゲームである『VALORANT』では1度キルされるとラウンド中は復帰しづらく、人数不利となりやすいゲーム。それゆえ、基本的には複数人での行動を基本として、人数有利状態で敵を倒すのがセオリーなのだが、彼の場合それを単身で打開できてしまうレベルなのだ。

 最終試合では「ローレン+ブロンズランク4人」vs「同ゲームをやり慣れているメンバー5人」でマッチし、ここまでしてようやく拮抗状態となったほど。彼の実力がいかに図抜けているかが伝わるはずだ。

 2022年5月22日には、ローレンが『AimLabs』で叩き出したスコアが11万点オーバーだったと話題になり、その入れ込みかた・実力の高さが知られるようになった。

 『AimLabs』は、FPS及びTPSゲームに必要となるエイム(弾を相手に当てる技術)を鍛えるトレーニングゲームで、FPSの大会ではプロプレイヤーたちが試合直前にウォームアップとしてプレイする姿が映し出されることもある。その影響もあって同作をプレイするプレイヤーは多く、人気を集めるトレーニングゲームだ。

 同作のスコアは、命中した数だけではなく、当てるまでにかかった時間、1秒間の命中数、命中率などを総計にして換算されるため、いきなりプレイしてハイスコアを出すのはなかなか難しい。一概に得点のみでFPSの腕前を語ることはできないが、その高いスコアに加えて高精度・スピード感が段違いであるというのが伝わってくる。

 これほどの実力を持ったローレンだが、これまでさまざまな大規模な大会・企画に出場しているものの、じつは優勝からは縁遠い人物でもある。『VTuber最協決定戦』『Crazy Raccoon Cup』などにたびたび出場してきたが、上位に食い込みつつも惜しくも優勝を逃してきている。

 8月24日に開催される予定の『VTuber最協決定戦 ver.APEX LEGENDS Season6』にも出場が決まり、おなじにじさんじの不破湊・イブラヒムとチームを結成すると発表された。

 不破は『Crazy Raccoon Cup』で、イブラヒムは『VTuber最協決定戦』でそれぞれ優勝した経験を持つ。先輩2人の胸を借りつつ、自身のプライドにかけて、なにより歓喜の瞬間を待つファンのためにも優勝に向けて死力を尽くすはずだ。

■エデン組が求める「プロフェッショナリズム」

 周囲との和を重んじながらユーモアある性格で盛り上げつつ、ゲームでは持ち前のゲームスキルの高さで周囲を圧倒。喋りでもゲームでも注目を集めやすい彼の下には、にじさんじ内外を問わず非常に多くの友人が集まることになった。

 特ににじさんじ外のストリーマーたちが集まるサーバー企画においてはこの傾向が顕著であり、k4sen、ボドカ、ふらんしすこ、rion、じゃすぱー、SellyといったFPSタイトル出身のストリーマーにくわえて、歌い手としても活動している天月やnqrse、さらに最近では参加型サーバー企画『ストグラ(ストリートグラフィティ ロールプレイ)』にも参加し、持ち前のコミュニケーション力とユーモアで多くの参加者に知られる存在となった。

 実際ここ1年ほどのローレンの配信を振り返ってみると、ローレン1人での配信よりも、複数人でのコラボ配信や参加型サーバー企画や大会などの配信が主になっており、多くの人達との信頼関係のなかにおいて活動が続いているといっても過言ではない。

 とはいえ、彼にはすこしだけ他の面々とは違った経緯で信頼できるメンバーがいる。

 エデン組、ローレンの同期であるレオス、オリバー、レインのことだ。

 エデン組の4人は自身の配信の中で、同期に関して特別な言葉を口にすることは少ない。コラボ配信が前後にあったり、にじさんじ公式の企画やグッズなどで共にすれば一言二言話題に上げるが、基本的には話に上げることはない。

 一方で、ひとたび顔を合わせればどんなに脈絡のないボールを投げてもキャッチしてしあえる、阿吽の呼吸・コンビネーションを見せることもある。むしろ彼らの場合、「雑魚ダウン!」などといった煽り合いに罵りあいが多かったかもしれない。最初のコラボ配信の段階からこうした傾向は見え隠れしており、早い段階からいまに繋がるコミュニケーションがなされていた。

 デビュー当初は「今後いったいどのようなチームワークを見せてくれるのか」と想像を巡らせたファンも多かったはずだ。

 そういったなかで、各々の活動に影響を与える激震が走ったことがある。

 2022年2月末にローレンが不祥事により数ヶ月の活動休止し、8月には4人の同期としてデビューしたアクシア・クローネが活動休止、その後卒業したのだ。この2つの出来事により、「エデン組は配信上で集結しづらいかもしれない」と感じていたファンもいたはずだ。

 だが、2023年9月16日に動画企画「エデン組、富士山を登る」が投稿されると、9月22日には記念すべきローレンの3Dビジュアルお披露目配信に4人が登場、先述したコラボ配信『僕らはいつも以心伝心!?エデン組で一致するまで終われまテン!!』が10月13日におこなわれた。ローレン復帰後から数えて、実に1年半ぶりに4人が一同に介したのだ。

 そこにいたのはデビュー時に見せていたように、軽快にしゃべりつづけ、煽り合いと罵りあいで笑い合い、勇気づけ合う4人の姿だった。

 4人がそれぞれにやりたい活動や「こうありたい」という理想があり、そのなかでひたむきに努力する働き者であることは、今回の記事を含めて4週連続で記してきたエデン組の足跡からアリアリと伝わってくるだろう。

 だからこそ、とある時期から「エデン組」はコラボ配信をしない、正確にはできなくなってきたといえる。今回ピックアップしたローレンに関して言えば、活動休止となったタイミング直前あたりから、VTuberやFPS系ストリーマーが多く参加するゲーム大会やサーバー参加型企画に顔を出し始めており、さまざまな面々と交流を深めつつあり、ほか3人についてもそれぞれが自身の活動に注力していたタイミングであったのだ。

 くわえてアクシアが卒業して年が明けた2023年以降は、エデン組の4人は猛烈かつ怒涛の勢いで所狭しと活躍していくことになる。

 にじさんじ内の大小さまざまな企画・大会には4人のうち必ずといっていいほど誰かが登場し、エデン組4人全員が何かしらの番組でMC・ナレーションとして出演。くわえてにじさんじ外で開催される大会・参加型企画、大手企業とのコラボレーショングッズやショップが展開され、さらにはテレビやラジオにライトノベルなどのオリジナルコンテンツにも参加している。

 4人が活動の裏側でなにを話し合い、なにを決意したかを詳しく計り知ることはできない。だが4人には共通した方針・フィーリングがあるのではないかと、筆者は考えている。

 それは、VTuberを「エンターテインメントのプロフェッショナル」へと押し上げようとするスタンス・理想の追求である。

 先に書いたローレンの炎上と復帰に際して、オリバーとレオスはこのように言葉を述べていた。

「彼がしたことに関して擁護するつもりは僕は一切ありません」

「色んな人にたくさんの迷惑をかけたし、その事についてはきちんと反省を示さなくてはならない」

「僕がその事についてイジったりすることは絶対ないし、触れることは今後一切ない」

「でも戻ってきてくれたからにはすごく頑張ってほしいし、起きてしまったからには100%は無理かもしれないけど、一緒に笑えたら嬉しいなと個人的には思う」

(オリバー)

「ローレンが復帰して一ヶ月くらいだけど、基本的な考えはオリバーくんと同じ。ずいぶん優しい言い方してあげるのね、と」

「私も仕事で色々やっている部分があって、今後の諸々の事情を考えたら遅いよりも速いほうがいいのかもしれないなということで、あくまで個人的な考えに基づいて今回コラボする」

「ただ、どんどん続いてコラボやってるからといって、全員が全員そう(同じ考え)ではない。そういう点でも皆さんご理解していただいたうえで、コラボの方をご視聴していただければいいかなと」

(レオス)

 このように、当時の2人からは厳しくも優しい言葉が語られている。ネガティブではなくポジティブを。悲しい顔ではなく笑った顔を。堂々としながら突き進む真摯さを。そんなスタンスを持って言葉を発したのならば、「趣味の延長線上」などではなく、「結果を生み出す仕事人(プロフェッショナル)」としての色合いが非常に強く見えてくる。

 先ほどの2人の言葉を俗っぽく言い換えれば、「不甲斐ないローレンのケツを叩いた」と言ってもいいだろう、そしてその後のローレンの活躍は前述した通り。VTuberをエンターテイメントのプロフェッショナルへと押し上げんと追求していく心が、エデン組4人には共通している。

 バラバラのフィールドで活動を続け、得意なジャンルも大きくは被らない4人は、「にじさんじ」の看板をそれぞれが背負いつつも、もしかすれば今後揃って配信に登場したり、ふだんの配信中に名前をあげることも、話題に上げることも少ないままなのかもしれない。

 だが、誰よりも厳しくて優しい、なにより頼りになる存在が同期として揃っていることが、彼らにとってかけがえない財産であることは間違いない。そんな信頼関係が、リスナーとだけではなく、エデン組4人を結びつけているのだ。