24歳・片岡千之助、歌舞伎の舞台セーブし、大学復学した理由語る 難役演じた映画「わたくしどもは。」も公開中

AI要約

若手歌舞伎俳優・片岡千之助が公開中の映画「わたくしどもは。」に出演し、役について語る。インタビューでは役作りや自身の人生観についても触れている。

片岡千之助は映画デビュー作として主演作「メンドウな人々」で赤いじゅばんを使って踊るシーンを即興で演じ、自身の成長を感じている。

昨秋に大学に復学し、歌舞伎の舞台と学業の両立に取り組んでいる片岡千之助。自身の将来と歌舞伎の歴史についても考えを巡らせている。

24歳・片岡千之助、歌舞伎の舞台セーブし、大学復学した理由語る 難役演じた映画「わたくしどもは。」も公開中

 公開中の映画「わたくしどもは。」(富名哲也監督)に出演している若手歌舞伎俳優・片岡千之助(24)が、このほどインタビューに応じた。新潟・佐渡島を舞台に現世と来世の間をさまよう魂の物語。小松菜奈、松田龍平、田中泯、大竹しのぶらが出演する中、千之助はマイノリティーの悩みを抱える少年を演じた。

 先日は特派員協会での会見にも参加。海外メディアに役について問われ「生死のはざまにいる存在。すごくいい意味で“浮いた役”をさせてもらった」と分かりやすく説明しようしていた。「生まれれば、いずれ必ず死は訪れるものです。歌舞伎の役の中では何度か死んでますが、もともと、死生観を考えるタイプでした。もし、いま自分の人生が終わってしまったらどうなるんだろう、とか」

◆映画には『分からない』醍醐味

 赤いじゅばんを使って踊るシーンも印象的だ。監督の指示でほとんど即興だった。「演じた役の心の中で起きる感情を体の動きで表現したつもりです」。公開順でいえば、今作で3作目の映画。しかし、撮影の順番はこの作品が最初だったため、“映画デビュー作”ともいえる。

 見る方では洋画に関心を持ち、名匠クリストファー・ノーラン、ウディ・アレンなどの作品を好んで見てきたという。「実際に映画の仕事をやってみて、一言でいえば『分からない』に尽きます。でもその『分からない』未知の感覚が難しく、おもしろい」

 そしてこんな言葉で補足した。「舞台だと演技が生まれる一瞬、一瞬がそのとき精いっぱいの自分の完成型。映像は最終的にどうなるか監督に委ねられます。出演作を自分で見るのは苦手。でも嫌だからと見ないのはダメですから。(今作は)いま出来る全てを出し切ったので悔いも満足もない。あるのは、たくさんの反省ですね」

◆昨秋、青学大に復学

 昨秋、大学に復学した。現在、青学大文学部比較芸術学科の2年生で、歌舞伎の仕事はセーブしている。祖父の片岡仁左衛門にも気持ちの変化を伝えてきた。「本音では学校より舞台と思っているでしょう。でも僕の考えを話すと理解してくれている。映画のときは『がんばってな』と言われてうれしかったです」

 20世紀最後の2000年に生まれた千之助。04年の初舞台から20年の節目になる。休学中、親は息子の学費を黙って払い続けていた。20代半ばで近い世代の役者仲間が歌舞伎の舞台を本格化させていく中、大学に復学して卒業を目指そうとするケースは珍しい。最初の学生時はコロナ禍で対面での授業が中断した。「僕のまわりの友達はそんな中で自分の将来を考え、選択し、卒業していったことになります」

 この時に痛感したのは、当たり前が決して当たり前ではないということ。映像の仕事にも向き合い、歌舞伎や表現について少し距離を置いて深く考えたい思いに駆られた。それは同時に自分自身を見つめ直すことだった。「歌舞伎の歴史は400年と言われますが、これから1000年続くかどうかは誰にも分かりません。役者の力だけでこれまで続いてきた訳ではなく、裏方の人々の力がどれほど舞台を支えてきたか。いろんな角度から考えてみたくなった部分もあります」

◆名門、松嶋屋の期待の星

 歌舞伎の名門、松嶋屋に生まれた。恵まれた環境でじっくり育てられ、ゆっくり確実に成長していた。まっすぐ演じることに専念できる道がある中で、考える時間を欲した。そう簡単に答えが出ないことは、分かっている。

 「少し年月がたって、いま講義を受けると、ものすごく新鮮です。西洋や東洋の演劇の話ひとつにしても。受け取り方が以前とまるで違うように感じられる。社会人の方が学び直したいと思われる理由が、分かる気がします」。卒論に関しては「歌舞伎とはあえて違うところを狙ってみたい」とテーマを探っている。

 歌舞伎に没頭する若い役者仲間に対して「焦りはないのか?」と聞いてみた。しばらく沈黙が流れた後に返ってきたのは「刺激にはなります」。自分の気持ちに噓をつくことなく、思い切って行動に移した。一見、歌舞伎から離れているようで、感性は磨かれ続けている。役者として飛躍する前段階に立っているのかもしれない。(内野 小百美)

3歳で歌舞伎の舞台に

 ◆片岡 千之助(かたおか・せんのすけ)2000年3月1日、東京都生まれ。24歳。祖父は人間国宝の片岡仁左衛門で父は片岡孝太郎。03年初お目見え。04年初代片岡千之助を名乗り初舞台。昨秋公開された主演作「メンドウな人々」で映画デビュー。時代劇映画「約束」、「九十歳。何がめでたい」(6月21日公開)にも出演。7月には新木宏典とのW主演で舞台「ヒストリーボーイズ」(東京・池袋あうるすぽっと)が控える。