北海道の宿泊税導入、検討大詰め 業者は懸念「デメリットばかり」

AI要約

北海道で宿泊税導入に向けた検討作業が進められており、宿泊事業者からは懸念の声が続々と上がっている。

宿泊税導入による徴収事務の負担やキャッシュレス決済の手数料、長期連泊ビジネス客による影響などが懸念されている。

道は宿泊税の導入理由や使途について説明し、宿泊事業者との意見交換を重ねながら、税率や制度の骨格を検討している。

北海道の宿泊税導入、検討大詰め 業者は懸念「デメリットばかり」

 北海道の宿泊税導入に向けた検討作業が大詰めを迎えている。道内各地で順次、宿泊事業者向けの説明会を開いており、質疑や意見を踏まえて早ければ5月中にも道の宿泊税案を策定する方針だ。ただし、宿泊事業者からは徴収事務の負担を懸念する指摘が出ており、「デメリットばかり」という声も漏れる。【石川勝義】

 「クレジットカード払いの手数料も(徴収の)手間も負担しなければならず、よい話がまったくない。『何のためにやらなければいけないのか』という気持ちでいっぱいだ」。札幌市で4月下旬に開かれた説明会で、ホテル支配人の男性が道の担当者に意見を伝えていた。

 宿泊税が導入されると、宿泊事業者は「特別徴収義務者」として扱われ、道の代わりに税を徴収する義務が生じる。道は手数料として、事業者に宿泊税の2・5%(当初5年は3%)の交付を想定する。

 道の試算によると、部屋数100室の施設(客室稼働率50%)に2人が泊まった場合、料金が1人当たり2万円未満(宿泊税100円)であれば、1年間(31日×12カ月)の税額は372万円。事業者に支払われる交付金は11万1600円(3%)になる。

 宿泊事業者は人手不足と人件費の増加に直面しており、新たな事務負担を避けたいのが本音だ。新型コロナウイルス禍の「GoToトラベル」事業を巡っては、煩雑な事務に嫌気が差して従業員が退職し、後任の確保に苦労することもあったという。

 客がクレジットカードなどで宿泊費を支払うと、カード会社に渡す手数料が交付金を上回り、事業者が赤字を被る問題も不安要素の一つに挙げられている。札幌市の旅館経営者は「キャッシュレス決済の手数料は高いところだと、4・8%になる」と指摘する。

 先行自治体の東京都や京都市によると、手数料が交付金を上回る場合でも特段の措置は講じていない。このため、京都市では宿泊税だけ現金で徴収する事業者もいるという。

 特別徴収義務者が損失を被る問題は、道庁内でも「制度としてゆがんでいるのではないか」と議論になっている。一方、「キャッシュレス決済はあくまで事業者が提供するサービスの一環で、手数料は事業者が負担すべきだ」という意見もあるといい、解決の見通しは立っていないのが現状だ。消費税の場合は納税義務者が宿泊客ではなく事業者だという違いがある。

 こうした事情を背景に税の使い道まで含め、「なぜ宿泊事業者が徴収を負担しなければいけないのか」という声も上がる。札幌は全道の宿泊客延べ数の4割が集中する。市内の事業者は「札幌は徴収の負担が重い損な役割。集めた税は全道各地で(徴収しない)他業種にも使われる。他の誰かが得をする、さびしい制度だ」とこぼした。

 また、説明会で、事業者からビジネス利用客を対象に免税を求める意見も出ている。有識者懇談会でも消費者団体などから同様の意見があった。

 小平町の民宿の男性経営者によると、宿泊客の95%はビジネス利用。連泊最長は8カ月だった。平均で2カ月ほどの滞在が多いという。長期連泊のビジネス利用客は観光客と比べて税負担が格段に重くなる。男性は「説明会を聞いたが、お客さんが払う税金に見合った恩恵があるとは思えなかった」と語る。

 この民宿は3月まで2食付き6300円だったが、食材や燃料が高くなり、4月から夏期100円、冬期300円の値上げを決めた。ただし、宿泊税導入後に宿泊料に税分を上乗せするつもりはないという。男性は「うちは安さが売りの宿。値上げはお客さんに申し訳ない。年金をもらっているので、民宿の仕事は黒字であればいい」と話した。

 道は宿泊税案を提示する際、税率など制度の骨格に加え、新税を導入する理由や税の使途について適切かを判断する基準を示す予定だ。道観光局は「さまざまな課題があるが、効果的な税の使い道を示し、納得してもらえるようにしたい」としている。

 ◇函館でも不安の声

 函館市が20日に開いた宿泊事業者を対象にした意見交換会でも宿泊税の導入を不安視する声が上がった。

 市の税制案は、宿泊料が1泊1人当たり2万円未満は100円▽2万円以上5万円未満は200円▽5万円以上は500円――と道が示す案に同額を上乗せして課税し、1泊1人当たり10万円以上の場合、2000円を独自に課税するもの。税収は年約4億円を見込む。

 出席した宿泊事業者からは「宿泊料金に道と函館市の宿泊税に加え、入湯税までかかるのは宿泊客に抵抗がある」といった声が出た。また、函館は五稜郭タワーなどへの日帰りや大型クルーズ船による寄港のように宿泊を伴わない観光も多く、「税金は宿泊者だけでなく(観光客から)平等に集めるのならば理解できる」との意見も相次いだ。

 市は「宿泊税は函館の基幹産業である観光の充実を図る財源として望ましい。宿泊事業者や関係団体と話し合いを重ねたい」としている。【三沢邦彦】

 ◇道が想定する宿泊税使途の予算規模

【観光の高付加価値化】計17億円

・ビッグデータ活用などマーケティング強化 5億円

・アドベンチャートラベルなど資源を生かした観光推進 5億円

・オーバーツーリズム対策など地域の取り組み支援 7億円

【観光サービス・インフラの充実・強化】計20億円

・ガイドなどの人材確保・育成 5億円

・観光DXなど受け入れ機能の強化・高度化 8億円

・広域観光の交通機能強化など移動利便性の向上 7億円

【危機対応力の強化】5億円

・旅行者の安全確保、風評被害対策の財源積み立てなど