店の経営を傾かせるほどの激しい「痴話喧嘩」…元・伝説のストリッパーを再び没落させた悪すぎる「男運」

AI要約

店の繁盛でうまく進みはじめた一条の人生が、狂いはじめるのに時間はかからなかった。

一条の喜ばしい性格が、経営を苦しめる原因となる。

男性との関係が事業に影響を与え、周囲との葛藤が激化する。

店の経営を傾かせるほどの激しい「痴話喧嘩」…元・伝説のストリッパーを再び没落させた悪すぎる「男運」

1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるに至る。川口生まれの平凡な少女が送った波乱万丈な人生。その背後にはどんな時代の流れがあったのか。

「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。

『踊る菩薩』連載第83回

『自らの商品価値に翻弄され自分を見失った元・伝説のストリッパーが唯一大切にし続けた「価値観」とは』より続く

店の繁盛でうまく進みはじめた一条の人生が、狂いはじめるのに時間はかからなかった。

一条は店で飲んで気が大きくなると、客からおカネをとらない。最後はタクシー代まで出してやる。どれだけ客が入っても、これでは儲けにならない。店が傾きはじめても不思議はなかった。

二店の従業員は合わせて20人近くになっていた。一条は彼らの給与を払うのにも四苦八苦しはじめる。

加藤は当時の様子をよく記憶している。

「一条さんは若い男の子が好きでね。とにかく年配のお金持ちより、若い男が好きやった。それで酒飲んだら、イイ男からはおカネを取らないんだ」

閉店後、客と一緒に飲みに行って、大盤振る舞いすることも少なくなかった。

店が繁盛しているのを見たゲンが利益を折半しようと提案すると、一条は「カネはない」と言った。彼女の性格なら、あるカネを「ない」とは言わない。実際になかったのだろう。

売上帳簿を付けているふうさえなかった。このあたりのルーズさを加藤はこう言う。

「客と一緒に飲んでしまう。そして、気が大きくなると、飲み代もとらない。客と一緒に飲みに行っては自分が支払う。彼女は根っから人を喜ばせることが好きやった。そのためには、損してもかまわないと思っていた。そういう意味では、芸人やった。商売人じゃなかった」

飲みすぎて、1人でトイレにも行けないときがあった。「おしっこが出そうやわ」と一条が言ったため、加藤が慌てて抱きかかえるようにして、トイレに連れていった。

「そしたら、彼女はどう言うたと思います? 『拭いてくれ』って、こうきました。紙を渡しました。変わった人でしょ」

男との関係も商売の支障になった。

一条は一時、ゲンにほれて、自分を見失うほどだった。彼が店に姿を見せると、横にぴたりとついて離れない。彼女との会話を楽しみにやってくる客としては、しらけるだけだ。

ゲンが女性を連れてくると、一条はいきなり、女性の顔にビールをかけた。情に厚いぶん、嫉妬心は桁外れに強かった。ゲンがホステスに話し掛けると、一条はその女の子をクビにする。若い女の子は危険だと言って、中年女性しか雇わなくなる。彼が年配のホステスと話しても、一条は気に入らない。機嫌が悪くなってゲンと大喧嘩する。

一方、ゲンにも嫉妬心があった。一条が他の男性とチークダンスを踊っているとき、店に入ってきて、いきなり彼女の着物の衿をつかんで引きずり回した。2人は客もそっちのけで喧嘩をする。