「妻が宗教に引っかかって娘まで入れようとしている」と相談にきた男性に禅僧がピシャリと言ったひと言

AI要約

カルト信仰への深入りは精神的な孤立や洗脳によって引き起こされることがある。友人がカルト教団に入信してしまい、事件が起こる前には彼女もその教団に興味を持っていたが、違和感を感じて保留していた。しかし、友人は入信後に孤立し、教団との関係が明るみに出ると両親からも非難を受け、さらには国外に出る事態に発展した。

これにより、友人とのコンタクトが難しくなり、友人は冷たくなり別人のように感じられた。脱会させることが難しい状況に置かれていることが明らかになった。

心に深い傷を負いつつも友人を取り戻したいと願う相談者の気持ちが伝わってくる。

カルト信仰への深入りはなぜ起きるのか。『苦しくて切ないすべての人たちへ』を上梓した禅僧の南直哉さんは「精神的な孤立が当事者の背景にある。意志を奪われた信仰は単なる洗脳である」という――。

 ※本稿は、南直哉『苦しくて切ないすべての人たちへ』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■大学の友人がカルト教団に入信

 かなり前のことだが、当時世間を驚愕(きょうがく)させる大事件を起こした宗教団体、いわゆるカルト教団に、友人が入信してしまったという若い女性に会ったことがある。

 「私がいけないんです、なのに私だけ無事で……」

 会って話し始めた途端に、彼女は泣き出してしまった。

 「私が入るはずだったんです……」

 上京して大学に入り、最初にできた友人が入信したという。ものの好みも家庭環境も似ていて、彼女と出会い、東京でひとり暮らしをする不安がどれほど軽くなったかわからない。そう私に語った。

 彼女は、小さいころからファンタジー系の書物が好きで、長じてからは思想・宗教、また流行り始めていたスピリチュアル的な言説にも興味があったという。

 ある日たまたま、大学の周辺で、少し風変わりなヨガのグループが参加者を募集していた。

 「すごく熱心な勧誘で、しかも言うことが理路整然としていて、なんだか説得力があったんです」

 少し覗いてみようかと思った彼女は、それでも聊(いささ)か気味が悪かったので、一緒に行こうと、その友人を誘ったのだ。そしてふたりで出かけたヨガ・グループの正体が、例のカルト教団だったのである。

■声も別人のように冷たかった

 ふたりは「初心者体験」的な指導を受け、魅力を感じるところもあったが、どことなく違和感をぬぐえず、参加者リストに連絡先を記入したものの、入会は保留して帰ってきた。

 その直後、相談者の女性は留学が決まり、ほどなく渡航。すると友人がひとりで入信してしまったのである。

 「そんなことになるとは夢にも思いませんでした。でも、本当でした」

「あの事件が起きる前にも、教団はマスコミで様々に報じられ、一時帰国したときに、私も目にすることがありました。そうしたら、教祖の取り巻きのような信者の一人として、彼女がテレビに映っていたんです!」

 ここから事態は急速に悪化する。教団が関係したと見られる事件が次々と明るみに出るにつれ、友人の両親から、彼女とその両親に激しい怒りと非難が浴びせられるようになる。彼女の両親も入信のきっかけを作った娘を叱責する。彼女は日本に居場所がなくなり、再び外国に出た。それでも、しばらくは日本の公安関係者が、彼女をマークし続けたそうである。

 「私がいけないんです。でも、どうしたらいいか、わかりません。なんとか脱会させたいけれど、あの後、一度だけ電話で話したきりです。声も別人のように冷たくて、セリフを話しているようでした」

「友だちは今も教団にいるの?」

「たぶん、そうだと思います」

「連絡はつかない?」

「電話もメールも返信ないし」

「でも、電話はかかるし、メールも送れる?」

「そうなんです」