「これは人災」 乗客家族が賠償求め社長ら提訴 知床観光船事故

AI要約

北海道・知床半島沖で2022年4月に観光船「KAZUI(カズワン)」が沈没し26人が死亡・行方不明となった事故で、乗客家族ら29人が運航会社に損害賠償を求め、札幌地裁に集団提訴した。

運航会社は事故の原因として安全ルールの無視や船の不具合を指摘。運航管理者や桂田社長に責任があると主張。

乗客家族らは慰謝料請求を通じ安全意識の低さを批判し、事件を人災と断じて法的責任を追及する姿勢を示している。

「これは人災」 乗客家族が賠償求め社長ら提訴 知床観光船事故

 北海道・知床半島沖で2022年4月に観光船「KAZUI(カズワン)」が沈没し26人が死亡・行方不明となった事故で、乗客24人のうち14人の家族ら計29人が3日、運航会社「知床遊覧船」と桂田精一社長に計約15億円の損害賠償を求め、札幌地裁に集団提訴した。乗客家族らが民事責任を追及するのは初めて。

 原告側は、昨年9月に国の運輸安全委員会が公表した報告書をもとに、「幾重にも定められていた安全のためのルールを同社がことごとく無視、軽視したこと」が事故の原因だと指摘。船のハッチに不具合がある状態で、荒天が予想されていたにもかかわらず出航させたという重大な過失によって沈没に至ったとして、運航管理者や安全統括管理者を務め、船長とともに出航判断をした桂田氏にも責任があると主張する。

 桂田氏は事故から4日後に開いた記者会見で、海が荒れるようであれば引き返すという「条件付き出航」を自身の判断で決めたと説明。引き返す基準は設定せず、「船長の判断で」と強調していた。

 原告側は、点検整備や連絡手段の確保を怠っていたことなどの不法行為と、会社を運営する上での安全管理に関する意識の低さを挙げ、「起こるべくして起きた事件と言わざるをえない」とした。請求する慰謝料額は「不法行為の悪質性」を踏まえたとしている。

 弁護団代表の山田廣弁護士は「不幸な偶然によって起きた事故ではなく、これは人災だ。同社と桂田氏の法的な責任をはっきりとさせ、全損害を賠償させることに全力を注ぐ」と話す。

 息子(当時34)を亡くした60代の父親は提訴後の会見にオンラインで参加し、「あの日から苦しみと悲しみをずっと持ち続けている。悲惨な事件が二度と起きないように警鐘を鳴らしたい」と語った。20代の息子を亡くした母親は「訴訟には時間や体力がかかるが、ずさんな運航管理で最愛の息子が亡くなったことを知ってほしい」とコメントした。桂田氏は取材に応じなかった。刑事事件としては、業務上過失致死容疑での立件も視野に捜査が進められている。(上保晃平、新谷千布美)