IRプロで「株価請負人」、裏で度々インサイダー取引か…行政処分を知られず他社で採用

AI要約

投資家向け広報(IR)のプロとして活動していた男が、インサイダー取引で逮捕・起訴された事件が発覚した。

被告は経営情報を悪用し、5000万円の利益を得ていたが、市場で株高が続く中、IRのスキルが重宝される状況下であった。

近年、IRに精通した人材は企業にとって重要度が高まっており、就業市場では即戦力として求められている。

 投資家向け広報(IR)のプロとして上場会社を渡り歩いた男が、金融商品取引法違反(インサイダー取引)で東京地検特捜部に逮捕・起訴された。起訴事実に絡む取引では、経営情報を知る立場を悪用して約5000万円の不当な利益を得たとされる。事件の背景には、市場で株高が続く中、投資を呼び込むIRに長じた人材が重宝されている事情もあったとみられる。(岡部哲也)

 「俺が株価を上げたという自負はある」。今年4月下旬、東京都内で取材に応じた堀内信之被告(60)(5月16日に逮捕、今月5日に起訴)は、IR担当の執行役員を務めた東証スタンダード上場の再生エネルギー関連会社「Abalance(エーバランス)」(東京)での実績をそう誇示した。

 堀内被告は1990年から約20年間、東京証券取引所で勤務した。ジャスダック(当時)広報室長などを務めてIRの知識やアイデアを蓄え、国内外の機関投資家と人脈を構築。退所後は上場企業4社のIR部長などを歴任した。

 エー社に入ったのは、太陽光パネルを製造するベトナム子会社が工場新設に動いていた昨年1月1日のことだ。数日後にまず「子会社のCSR(企業の社会的責任)活動が世界的な評価機関から高く評価された」とアピールすると、2月には工場新設に向けた資産取得と業績予想の上方修正を自ら発表。他にも「工場増設を積極的に検討する」などと立て続けに発信した。

 エー社の株価は、入社時の2000円台から、2月中旬に4000円を超え、5月には最高値の1万3000円台に到達。頻繁に情報を出して投資家の関心を集める被告は、SNS上で「株価請負人」「歴戦のベテラン」と称された。だが特捜部の発表などによると、被告は「資産取得決定」という重要事実が公表される前の1月下旬にエー社株1万9400株を買い付け、2月中旬~3月頃に売り抜けていたとされ、計約5000万円に上る利益を得たという。

 株高傾向が続く近年、IRに精通した人材は投資家への発信を強化したい企業に重宝されている。IRのコンサルティング事業を行う「マーケットリバー」(東京)の市川祐子社長は、「即戦力の求人が多い『売り手市場』だ」と話す。