「母乳バンク」国内で取り組み始まって10年 ドナーミルク導入施設全国103カ所まで普及も7県ではゼロ

AI要約

母乳バンクの必要性と活用例を紹介。

ドナーミルクの重要性や効果について解説。

国内の母乳バンクの現状や課題について述べられている。

「母乳バンク」国内で取り組み始まって10年 ドナーミルク導入施設全国103カ所まで普及も7県ではゼロ

 早産などで小さく生まれた赤ちゃんに母親の母乳が足りない場合などに、寄付された母乳(ドナーミルク)を提供する「母乳バンク」。国内で取り組みが始まって10年がたち、利用する病院の数は100を超えた。ただ、九州には6施設のみで、九州での出生数の半数を占める福岡県、熊本県に利用できる病院がない。関係者は「母乳で救える命がある。どこで生まれても使える環境を」と願っている。

 神奈川県に住むウェブデザイナーの女性(42)は2022年12月、予定日より約3カ月早い妊娠27週で長男を出産した。体重678グラム、手のひらに収まるほど小さかった。最初は母乳が出たが、生後1週間ごろから足りなくなり、医師の勧めでドナーミルクを使うことにした。

 ドナーミルクの対象となるのは、体重1500グラム未満で生まれた「極低出生体重児」だ。臓器が十分に発達していないため、病気にかかりやすく、粉ミルクは体への負担が大きい。母乳には消化管の成熟を促す成分が含まれており、腸の一部が壊死(えし)して生死に関わる「壊死性腸炎」や未熟児網膜症、慢性肺疾患などにかかるリスクを減らす効果があるという。

 「母乳が足りなくても大丈夫だと救われた気持ちだった」と女性。長男は約6カ月間ドナーミルクを使い、生後9カ月で退院した。1歳半の今、体重は8キロを超え、元気に保育園に通えるようになった。「ドナーミルクのおかげ。自身の子育てで大変な時期に母乳を寄付してくれた方には、感謝してもしきれない」

 国内の母乳バンクは14年に初めて開設され、現在は計3カ所ある。都内の2拠点は「日本母乳バンク協会」と「日本財団母乳バンク」が運営。ドナーから寄付された母乳を低温殺菌処理し、医療機関の要請を受けて発送している。23年には災害時に供給が途切れないように、愛知県豊明市の藤田医科大病院にストック拠点が整備された。

 同協会によると、国内でドナーミルクを必要とする赤ちゃんは推定約5千人。バンクが本格的に稼働を始めた18年度にドナーミルクを使用した赤ちゃんは66人だったが、23年度は1118人まで増えた。5月には、クラウドファンディングで集めた約2400万円で協会の運営するバンクに最新の機器が導入され、処理能力が約3倍に向上した。

 供給できる環境は整ったが、ドナーミルクを導入している施設は限られる。全国103カ所のうち、東京に14、愛知に11ある一方で、7県でゼロ。九州では年間約8万人の赤ちゃんが生まれるが、導入している病院は5県6カ所のみで、約4万5千人が生まれている福岡、熊本にはない。