Amazonが使う巨大バーチャルプロダクション「Stage 15」を見てきた

AI要約

Amazon MGM Studioに設置されたバーチャルプロダクション施設の規模や活用方法を取材。

バーチャルプロダクションの効率化とクオリティアップを図る取り組みについて探究。

クラウド活用による制作効率化の重要性と、Amazon MGM Studioの取り組みについて紹介。

Amazonが使う巨大バーチャルプロダクション「Stage 15」を見てきた

先日、アメリカ・ロサンゼルスを訪れた。目的は、Amazon MGM Studioにある巨大なバーチャルプロダクション施設を取材するためだ。

バーチャルプロダクションは「インカメラVFX」とも呼ばれるもの。背景をリアルタイムCGで描き、映像制作のコスト削減とクオリティアップの両方を目指すものだ。

以前にも本連載では国内の例を紹介しているし、すでに多くの映像作品で使われている技術ではある。

しかし、ハリウッドのスタジオでどのくらいの規模のものが使われているのか、実際に目にする機会はあまりない。

そこで今回は、最大規模のスタジオであるAmazon MGM・Stage 15に常設されている設備を見ながら、現在どのように使われるのかを見ていこう。

その裏では、設備を効率的に回すためのクラウド活用も進んでいた。

■ 直径24mのバーチャルプロダクションを体験

MGMは長い歴史のある映画会社だが、2021年にAmazonが買収を発表、Amazon Prime Videoと連動してビジネスを展開してきた。2023年にAmazon StudioとMGMホールディングスが合併し、現在の「Amazon MGM Studio」となる。

Amazon MGM Studioのファシリティはロサンゼルス・カルバーシティにある。隣にはソニー・ピクチャーズのスタジオもあり、ここもまた映画関係施設の集まっている場所である。MGM Studioでは様々な映画やドラマが撮影されてきたが、現在もその役割は変わらない。

敷地内には映画に加えAmazon Musicのオフィスもある。だがなんといっても、巨大なスタジオ群が目を惹く。

中でもStage 15は、バーチャルプロダクションを含む最新の設備を整えた常設スタジオとなっている。

Stage 15は1940年代に作られた建物で、「ロボコップ」(1987年版)の撮影にも使われたところ。だが2020年に入って改装を進め、2022年より、バーチャルプロダクション向けの場所に作り替えらたという。

規模はとにかく大きい。筆者も国内でいくつかのバーチャルプロダクションを見てきたが、その中でも群をぬく。

Stage 15は天井までの高さが約14m。その中に、直径約24.4m・高さ約8mの、円柱上のステージがある。ピンとこないが、体積にすると約3701立方メートルだそうで、学校の25mプール6つ分以上、という計算だ。

この中に、3,000枚のLEDパネルと100台のモーションキャプチャ用カメラが備えられている。

使っているディスプレイパネルのメーカーなどは公表されていないが、輝度などの画質も十分に見える。

天井もLEDを敷き詰めた照明になっている。もちろん、さらに別途照明を入れることも可能だ。

今回はデモなのでステージ上にセットは組まれていないが、もちろん本来はここにセットを組み、その中で俳優が演技をすることになる。

実際に中に立って写真を撮ってみたが、どうだろうか?

実際の撮影に使うカメラ(位置や画角を把握し、背景表示を変える機構を搭載しているもの)で撮ってもらった映像が以下になる。

今回は3パターンの背景を用意し、それぞれ移動しながら撮影してもらっているが、実際の撮影時にも、複数の背景を用意して立ち位置を変えながら、効率的に撮影することも少なくないという。

以下に、設備に関するビデオもシェアしておこう。Amazon MGM Studioはバーチャルプロダクション専用の部門を抱えており、フルタイムで20人のチームが稼働し、日々の撮影に活用されている。

■ 制作価値を上げるための「バーチャルプロダクション」

Amazon MGM Stage 15にこうした設備が常設されているのは、それだけ日常的に撮影に使っているからでもある。

Amazon MGM Studioのディレクターで、World Wide Head of Visual Effects and Virtual ProductionのChris Del Conte氏(愛称はcdc)は、活用状況やその価値について次のように話す。(以下敬称略)

cdc:すべてのシーンで、クルーがロケ地へと向かうことはできません。その場合、解決方法はいろいろあるわけですが、できるだけ効率を上げようと努力しています。例えばこのステージの場合、前回は7つのカメラを同時に回して撮影をしていました。

制作には業界標準であるUnreal Engineを使っています。開発元のEpic Gamesとは深いパートナーシップを築き、早期のベータ版からテストを行ない、可用性を確認しています。

私たちはすべてのドラマや映画を評価し、バーチャルプロダクションが使用できそうな機会を探し、システムを構築しました。

ただ、作品の中の全てのシーンがバーチャルプロダクションのために書かれているわけではありません。

バーチャルプロダクションが合うシーンならそのまま撮影しますが、そうでない場合には、(作品の脚本や撮影などの)クリエイティブチームに戻り、「少し変更すればバーチャルプロダクションで作れるところはないか」「この部分は明確にバーチャルプロダクション向けではない」と分析を行ないます。

要は、すべての脚本を「どう撮るか」という観点で一定の粒度に分解し、検討するんです。作品制作において、監督・ラインプロデューサー・プロダクションデザイナーは、3本の柱のようなものです。この作業には、3本柱の全員が参加していることが必須ですね。

結局のところ、バーチャルプロダクションも「プロダクション(制作)作業」の1つです。最初の脚本から検討を開始し、グリーンライトを点灯させる(制作を開始する)前に、どのように機能するかを把握する必要があることに変わりはありません。

■ 効率アップにはクラウドの活用も必須

そんなプロセスの中で重要になってきているのがクラウドの力だ。

バーチャルプロダクションでカメラとディスプレイを連動させ、撮影する作業そのものは現地の機器で行なう「ローカル」なものだが、そこで活用するデータの製造などについては、クラウドの活用が欠かせない。

Amazonの場合であれば、同社のクラウドインフラ部門であるAmazon Web Services(AWS)を活用する。

AWSでコンテンツプロダクション部門のグローバル・ストラテジー・リーダーを務めるKatrina King氏は、映画制作やバーチャルプロダクションでのクラウド活用についてこう話す。

King:バーチャルプロダクションは、本質的には移動を減らしつつ、そこで必要となるコストやCO2を削減するためのテクノロジーです。撮影は天候や時間などの制約が大きかったわけですが、Stage 15のような設備を使えば、制約はかなり小さなものになります。

しかし、それを活用するには、柔軟に演算力を使う必要が出てきます。アセットやシーンの作成中、より詳細で忠実な表現を行ないたい時には高い演算力が必要になりますが、アーティストが常にそれを準備するのは非現実的でもあります。

AWSを活用し、プロジェクトのライフサイクルに合わせて演算力を変えていくことができます。初期には軽量なインスタンスで多数の制作を進め、プロジェクトが進行して複雑な作業が必要になるのに合わせて、使用する演算力を増やしていく、という柔軟な対応が可能です。

だからこそ、巨大なサーバーファームを持つ大企業以外でなくてもいいですし、世界中のアーティストが同時に作業を行なえるようになるわけです。

世界的に見れば配信サービスも過当競争の時代に入り、映画・ドラマの新作への投資額が減少しつつある。

ただその中でも、AmazonはAmazon Prime Video向けに多くの作品を提供している。顧客を惹きつけるためには必須の要素だからだ。

作品の制作効率を上げ、しかも品質を高めていくには、いろいろな技術の導入が必要になってくる。

バーチャルプロダクションは有用だが、「試行錯誤すると結局コストがかかるので、事前の計画が重要」という話も聞く。

そう考えると、バーチャルプロダクション自体をどう使うのか、そこで使う素材をどう効率的に制作していくかという判断が重要であり、その部分で「検討力」「クラウドの活用」が大切……ということなのだろう。