「5分前に退勤していれば私が…」 市庁駅ショック、市民を襲ったトラウマ=韓国

AI要約

ソウル市庁駅で起きた自動車突進事件によるトラウマや深い影響について、地元の飲食店経営者や市民たちの心情が描かれている。

事故現場に最も近い人たちは特に証言を避ける傾向にあり、避けられない思い出や恐怖との闘いが続いている。

事故を経験した市民たちだけでなく、オンライン上でも不安と怒り、加害者への嫌悪が広がっており、市当局も心理相談センターを設置するなど対策を講じている。

「夜は眠れず、居間の明かりをつけたままにしている。明かりを消せばその日のことがずっと頭に浮かんで…」。

8日、ソウル市庁駅7番出口付近にある飲食店の経営者Aさん(64)はこのように語った。Aさんの飲食店は1日に9人の犠牲者が発生した「自動車突進」惨事現場のすぐ近くにある。Aさんは先に退勤したが、事故を聞いて急いで店に戻る途中、倒れている人たちの姿を目撃した。

「路上で倒れていた人たちの姿を今も生々しく思い出す」というAさんの目には涙がたまっていた。まだ飲食店の内部にはその日の事故の余波で割れたガラスの破片が散らばっていた。この日にようやく店内の清掃を始めたAさんは「事故当時、職員1人が普段より遅れて退勤の準備をし、まだ店の中にいた」とし「少しでも先に店を出ていれば大変なことになっていたかもしれない」と話した。

日常を襲った事故は市民にも深いトラウマ(心的外傷)を残した。2022年10月29日に159人の犠牲者を出した「梨泰院(イテウォン)惨事」以来2年ぶりだ。惨事を経験、目撃した人たちだけでなく、SNSなどオンラインを通じて間接経験を持った市民も不安感を訴えている。

中央日報は事故と直接、間接的に関係がある市民15人に深層インタビューをした。市庁駅事故から1週間が経過したが、市民はトラウマの中で喪失感と怒り、罪悪感の間を行き来していた。「犠牲者は自分だったかもしれない」という不安感も大きかった。

Aさんのように事故現場に最も近くで接した人たちはその日のことが忘れられず苦しんでいた。取材陣が接近しても避けて話そうとしない人が多かった。

事故現場付近でビール店を経営するパクさん(66)は「事故の2日後までは忙しくてそうでもなかったが、その後からは何度もその日(事故当日)のことが思い浮かんで恐怖を感じる」と話した。近くのコンビニ経営者Bさんは「事故の瞬間を目撃したアルバイトの店員が当時のことについて話すのを避けている」と伝えた。この店員はソウル中区庁が支援するトラウマ治療を受けることにした。近くのカフェで働く40代の女性チョンさんは「今は救急車の音を聞くだけでも胸がドキドキする」と伝えた。

当日に犠牲者を葬儀場で搬送した救急隊員も同じだった。救急隊員として勤務する20代のイさんは「自分と似た年齢の会社員らが退勤時間帯に一度に犠牲になる事故を見ると他人事と感じない」と重く口を開いた。

事故現場のソウル中区世宗大路はソウル市庁だけでなく多くの会社、飲食店が密集したところであり、市民の往来が多いところだ。その瞬間に現場にいなかったとしても、ここを毎日通過する会社員も不安を感じるしかない。

当日が会食だったという会社員Cさんは「5分前に席を立っていれば自分もその事故現場にいたかもしれない」と話した。付近のホテルに勤務するキムさん(37)は「昼食や会食など1週間に何度か通ることろでこのような大きな事故が発生したというのがまだ信じられない」とし「周囲の歩道はほとんどの狭いので、歩くたびに周辺が気になる」と語った。

現場で近い金融機関の職員チャンさん(30)も「事件に関連して家族の間で『道路に接する歩道でなく、できるだけ内側の道を通るようにしよう』という話をした」とし「最近は車が少しでも自分に近づくと恐怖を感じる」と伝えた。

家族を亡くした虚しさは罪悪感につながった。今回の事故で犠牲になった35歳のサービス会社職員の母は2日、ソウル大病院の葬儀場で「おかしな運転者が道を歩いていた若い私の息子を奪っていった」と怒りを表した。別の犠牲者のキムさん(38)の父(68)は3日、「その日、息子に『今日は来ないのか』と尋ねたところ、約束があるという返答を聞き、「何の約束がそんなに多いのか』と言って電話を切った」とし「家に来るよう言えばよかった…」と言ってうな垂れた。

怒りに加えて「嫌悪」までが表れている。加害車の運転者チャ氏の年齢が68歳ということが報道で知られながらだ。オンライン上では「良心的に65歳以上は免許証を返納して公共交通を利用するべきだ」「高齢者の免許証を剥奪してほしい」などのコメントがあった。今回の事故で同僚を失ったソウル市庁の主務官Dさんは「このよう事故は二度とあってはいけない」とし「徹底的な対策が必要だ」と声を高めた。警察は事故被害者に対するオン・オフライン上の暴言など2次加害に対する捜査を行っている。

チャ氏が事故の原因として「急発進」を主張し、「安全は自ら守るべき」という認識まで市民の間で広まっている。ポータルサイト「ネイバー」データラボの月別検索量推移によると、アクセル、ブレーキペダルがある運転席下段に設置する「ペダルブラックボックス」キーワード検索量が6月2日の「2」から事故3日後の7月5日には「100」へと50倍に増えた。数値が100に近いほど検索量が多い。

市民の間にトラウマが広がると、ソウル市庁および中区庁は心理相談センターを運営するなど対策を用意した。日常の空間で発生した惨事であるだけに事故の被害者・遺族を含む全国民が専門家の支援を受けることをためらってはいけないという分析もあった。

檀国大のイム・ミョンホ心理学科教授は「日常空間で予想できない災難が発生すれば心理的に事故当事者と同一視する効果が強く表れ、『自分もそうなるかもしれない」という恐怖や不安を感じる」とし「まず家族に話して助言を受け、必要なら専門家の相談や助けを求めなければいけない」と説明した。

中央大のチョン・テヨン心理学科教授は「今回の事件は被害者と遺族だけでなく同僚、知人、事故現場をよく通行する市民など間接的な心理的衝撃を同時に経験した人が多いため、ソウル市など自治体や政府レベルで回復のための制度的装置を用意する必要がある」と話した。