スコアは僅差でも…。フランス代表とベルギー代表の間にあった大きな差。明暗を分けたポイントとは【ユーロ2024分析コラム】

AI要約

フランス代表がベルギー代表を1-0で下し、ベスト8進出を果たした試合を振り返る。

フランス代表は柔軟性を見せ、交代策も成功。一方、ベルギー代表はボールが回らず苦戦。

指揮官の采配が試合結果を左右し、フランス代表が依然優勝候補として浮上。

スコアは僅差でも…。フランス代表とベルギー代表の間にあった大きな差。明暗を分けたポイントとは【ユーロ2024分析コラム】

 UEFAユーロ2024(EURO2024)ラウンド16、フランス代表対ベルギー代表が現地時間1日に行われ、1-0でフランス代表が勝利した。絶好調とは言えない同士の一戦はやや停滞した展開に。ともに枠内シュート2本と、内容的にはどちらにもベスト8進出の可能性があった中で、何が両者の明暗を分けたのだろうか。(文:安洋一郎)

●フランス代表がベスト8へ

 大会前からイングランド代表と並んで優勝候補筆頭と思われていたフランス代表だが、現状では本領発揮とはいっていない。

 グループリーグではオーストリア代表との初戦にこそ勝利したが、オランダ代表との第2戦、ポーランド代表との第3戦で引き分けに終わり、予想外の2位での突破となった。

 ベスト16で対戦するベルギー代表も同様に万全とは言えず、こちらはスロバキア代表との初戦でまさかの敗戦。結果的に得失点差でライバルを上回り、何とか2位でグループリーグを突破していた。

 この両チームには共通点がある。グループリーグでの得点数(2)と失点数(1)が同じであり、ともに決定力不足が露呈していたのだ。

 そんなギアが上がり切っていない同士の対戦は、キックオフ直後からやや停滞した試合展開に。前半途中からフランス代表が流れを掴んだが、両チームともに試合を通して2本の枠内シュートに留まるなど、最後の局面での精度はグループリーグと同様に足りていなかった。

 それでも最後は85分に決勝ゴールを決めたフランス代表が勝利した。試合内容的にはどちらにもベスト8進出の可能性があった中で、何が両者の明暗を分けたのだろうか。

●試合中にみせたフランス代表の柔軟性

 両者の間にあった最大の差は「柔軟性」だ。

 ベルギー代表はキックオフ直後から右サイドのヤニック・カラスコとティモシー・カスターニュのコンビを中心に攻撃を展開し、実際に彼らの連係で大きなチャンスが訪れた場面もあった。

 相手にペースを握られる難しい試合展開でも、グループリーグでPKからしかゴールを奪われなかったフランス代表の堅守は強みになる。最終ラインには守備で無理が効く選手が揃っており、守護神のマイク・メニャンも絶好調。簡単には決定機を作らせない。

 初手のアプローチに成功したベルギー代表だったがチャンスをものにできず、30分ごろからはフランス代表が一方的に攻める展開となる。そこで見られたのが「柔軟性」だ。

 キックオフ直後は右WGで先発出場したアントワーヌ・グリーズマンの位置がゴールから遠すぎたことで、トップ下起用がハマっていたグループリーグとは対象的に味方選手との近い距離でのパスワークからチャンスを演出する機会が少なかった。

 そうした中で30分ごろからフランス代表は大胆に両サイドバックが高い位置を取る“幅を使った攻撃”を展開した。その代表例が34分のジュール・クンデのクロスからマルクス・テュラムがヘッドで合わせたシーンだろう。

 グリーズマンが右サイドから内側に絞ることで、ベルギー代表の左SBアルトゥール・テアテもそれに釣られて絞っての対応となり、空いたスペースに右SBのジュール・クンデが上がって攻撃参加するシーンが増えた。そこにアンカーのオーレリアン・チュアメニが見事なロングパスを通すことで、フランス代表は攻撃に活路を見出した。

 交代策などは関係なしに、試合途中で攻撃の形を変えることができる「柔軟性」はフランス代表の強みと言えるだろう。

●試合の明暗をわけた「交代策」

 完全に試合のペースを握ったフランス代表だが、試合を通して19本のシュートを放ちながら枠を捉えたのは2本のみと最後の決定力が足りなかった。この日はエースのキリアン・エンバペも5本のシュートを放ちながら1本も枠内シュートを打てていない。

 両チームともになかなかゴールを奪えないという展開で、残り30分となった60分ごろに両指揮官が動いた。

 62分にフランス代表は前半に決定機を外したテュラムに代えて、よりストライカータイプのランダル・コロ・ムアニを投入。その1分後にベルギー代表は3列目で起用していたケビン・デ・ブライネを高い位置に上げるために、ツートップの一角であるロイス・オペンダを削ってボランチのオレル・マンガラを投入した。

 結果論にはなるが、この交代策が試合の結果を決めている。85分にコロ・ムアニはエンゴロ・カンテからパスを受けてから強引に持ち出して右足を振り抜き、ヤン・ヴェルトンゲンのオウンゴールを誘った。これが決勝点となっている。

 一方のベルギー代表はデ・ブライネを高い位置に上げるという作戦にこそ成功したが、アマドゥ・オナナとマンガラのコンビでは中盤でボールが回らない。そもそも頼みの綱であるデ・ブライネのところにボールが届かない展開が多かった。

 オナナとマンガラのダブルボランチは0-1で敗戦したスロバキア代表との初戦でも保持の局面で全く機能していない。仮にマンガラではなく、より周りの動きを見ながら効果的にパスを出せるユーリ・ティーレマンスを投入していたら試合展開は変わっていたかもしれない。

 奇しくもこの試合のラストプレーは、ボールを奪いドリブルでのキープに成功したコロ・ムアニと、それを後ろから倒してイエローカードを貰うマンガラという、交代でピッチに入った2人が関わったものである。交代策に“成功したフランス代表”と“失敗したベルギー代表”という構図そのものだった。

 交代策こそ、指揮官の柔軟性が問われる場面であり、ディディエ・デシャン監督とドミニコ・テデスコ監督の采配が試合の結果を決めた。ベンチにいる選手のクオリティの差があったにしろ、それをどのような場面で効果的に起用するかは指揮官の腕にかかっており、彼らの間にも大きな差があったのは確かだろう。

 誰を起用しても強力な大会随一の選手層と指揮官の采配力、ピッチ上での柔軟性をみると、依然としてフランスが優勝候補筆頭だと言っていいだろう。

(文:安洋一郎)