冨安健洋の凄さは映像に映らない。坪井慶介が言語化する2種類の守備「スペースは点を取らない」【元サッカー日本代表のDF論】

AI要約

冨安健洋の凄さと若さ、他のJリーグ選手の印象、そして対戦相手によって変えるプレースタイルについて語る。

ディフェンスの基本から奪いにいく守備の重要性、守備の積み重ね、そしてスペースを埋めるだけで満足せずにディフェンスの幅広いアプローチを実践する必要性について説明。

坪井慶介氏がプロフィールからディフェンスに対する考え方、経験、そして今後のサッカー観戦における注目ポイントまでを紹介。

冨安健洋の凄さは映像に映らない。坪井慶介が言語化する2種類の守備「スペースは点を取らない」【元サッカー日本代表のDF論】

 かつてサッカー日本代表として活躍した坪井慶介氏は、日本代表、Jリーグ、プレミアリーグなど数多くの試合を解説している。坪井氏が現役時代に得意としたディフェンスは記録に残りにくいが、その過程には様々な駆け引きや技術が詰まっている。今回は現役選手やチームを例に、ディフェンス論を語ってもらった。(構成:舞野隼大)

映像には映らない冨安健洋の凄さ

 冨安健洋は日本のCBで歴代最強だと思っています。潰せるしカバーもできて、足元もうまい。トータルして、僕が理想にしている“安心感を与えられる選手”と言えますね。

 サイズとスピード、パワーもあるのに、準備に長けているから先に動き出して後ろのケアもできる。出し手にプレッシャーがかかっているのか、かかっていないのか。プレッシャーがどっちの方向からかかっているのか、前からかかっているのかを見て、相手がどっちにボールを出すかというのを予測しているんです。選択肢がここしかないと思ったらラインをコンパクトにして、相手がオフサイドにかかりやすくしています。

 ただ、そういった細かい動きは映像に映らないことが多いので、日本の子どもたちにはスタジアムに行って、冨安の動きをぜひ見てほしいですね。なにより、それを25歳という若さでやっているのがすごい。僕が25、6歳の時なんて「相手と多少離れていても、追いつければ問題ないでしょ」って思っていましたから(笑)。

 最近のJリーグで言うと、FC町田ゼルビアのドレシェヴィッチもいい。サンフレッチェ広島で言えば、塩谷司、荒木隼人、佐々木翔の3バックもトータルしていいですよね。

 楽しみな選手で言えば、川崎フロンターレの高井幸大ですね。192cmという体格がある上に、しっかりとポジション修正もできる。クラブでは途中出場が多いですけど、まだ19歳ですしポテンシャルがある選手ですね。

 あとCBじゃないですけど、菅原由勢も好印象でした。守備の帰りや中への絞り、絞っておいてサイドチェンジのボールが出た瞬間にポジション修正をしたり、サイドチェンジが飛んでいる間にズレていくといった動きの1つひとつが洗練されていて、守備のセンスがありますよね。

相方によって変わるプレー。田中マルクス闘莉王、中澤佑二、宮本恒靖…

 僕が日本代表でプレーしていて必要だと思ったのは、適応能力の高さです。すり合わせる時間がない中で、代表に来たら代表のサッカーにパッと切り替えられるか。僕も代表に選ばれていた時は、(田中マルクス)闘莉王とやる時とボンバー(中澤佑二)とやる時、ツネさん(宮本恒靖)と組む時とでプレーを変えていました。

 例えば闘莉王は背後にスペースがあるのが好きじゃなかったから「今はラインを上げないでほしい」と要求されたら、ラインを低くするようにしていましたし、闘莉王が「(前に)いくよ」という時は「裏のカバーは全部する」と言ってました。

 個人戦術で言えば、1対1の局面でもドリブラーと対峙する際に僕自身もいろいろ試したことがありました。相手の目を見ることもあれば、フェイントに惑わされたくなかったので全身をボヤッと見たり、逆に足元に視線を集中させることもありました。

 対峙する際の姿勢もやり方はいくつかあります。僕の場合、半身で誘導しているとその逆を相手に突かれてしまうことが多かった。結局は、その人のやり方次第かなと思いますが、“自然体で正体する”ことが一番やりやすかったですね。

 相手との間合いについても、本山(雅志)とか(田中)達也とか、うまい選手には相手の間合いで仕掛けさせないように、なるべく早く寄せることを意識していました。緊急的にスライディングで止めなければいけない場合は、ボールが足を離れた瞬間を狙うと僕がスライディングにいってる最中にもう一度触られてかわされてしまうので、相手がボールをつついた瞬間を狙っていました。

 自分の背後をプルアウェイして狙ってくる相手に対しては、SBとの関係もあるので難しいですけど、まずは出し手の状況を見ていました。そこで出し手にプレッシャーがかかっていなかったら半歩、もしくは一歩下がって、背後のケアをしていましたし、ボールが出なかったらラインを上げるとか、横にズレるという作業をしていました。

“スペースを埋めているだけで満足している”チームがある

 クロスを上げられた時やCKからのボールには、身体を開いて相手とボールを同一視するために「身体を開きなさい」とはよく言いますよね。ボールウォッチャーになった瞬間、相手に背中を向けることになるので、相手に背中を向けないようにして、前に入られたり、逃げられないようにすることが大事です。

 先月の湘南ベルマーレ対サガン鳥栖の試合では、ゴール前に人はいるのに点を決められてしまうということがありました。湘南はゾーンで守っていますけど、この失点の場面ではボール方向にみんなが向いてしまっていた。

youtu.be/AGk7-0FMReQ?si=cEqOmX9LACR8fC7f&t=85

 ディフェンダーに大事なのは“積み重ね”です。起こった結果に対して、今のは寄せにいきすぎたのか、遠すぎたのかとか、寄せた結果どっちにかわされて、その時の身体のスタンスはどうだったのかという経験を蓄えていくところからがスタートですね。

 解説の時によく言ってることは、スペースは点を取らないということです。ゾーンを組んでスペースを消したところから、最後に人とボールをどうするかが曖昧だとやられてしまう。最後は人とボールなんですよ。でも“スペースを埋めているだけで満足している”というチームが今でも見受けられますね。

FC町田ゼルビアの「奪いにいく守備」。「ディフェンスは大きく2種類ある」

 ブロックを敷いた守備でも同じことが言えます。細かい話になっちゃいますけど、ブロックを敷く理由は、誰かがプレスしに出た時にすぐそのスペースを埋められるからです。ブロックを作っているだけなら別にそこに立っているだけでもいいので、そんなに難しいことじゃない。

 難しいのは、そこから奪いにいくこと。奪いにいくためには、綺麗に作ったブロックを崩して、それをすぐに埋めるということができないと意味がないと思っています。それが負けている状況なら、なおのことですね。

 堅守のFC町田ゼルビアも、奪いにいく守備をしています。例えばSBが前へ奪いにいって、CBとの距離が広がっても、ボランチが降りてそこを埋めている。そのボランチがいた場所に今度は前の選手も帰ってくるという修正がすごく早い。

 自分が寄せることでどこが空くかというのをちゃんと判断して考えていたのが、セルヒオ・ラモスでした。この場面、セルヒオ・ラモスが早く縦を切ってシュートコースに入ってしまうと、相手の9番に繋がれてしまいます。だから、あえてスピードを緩めて中のコースを消してからボールホルダーに寄せていた。この一連の動きはすごいと思います。

youtube.com/watch?v=tOfJnyiMlNU&t=81s

 ディフェンスは大きく分けて、ゴールを守るための守備と、奪いにいくための守備の2種類があります。最終的には攻撃に転じなければいけませんが、流れを読んで2種類のディフェンスを使い分けることが大事です。

 自分たちにリズムを手繰り寄せるためにハメにいったとしても、プレスを2つ3つ剥がされて相手のリズムになってしまっていたら、僕は引いて我慢すべきだと思っています。その見極めがとても難しいですけど、試合を見る上でもそうしたところを注目してみると、よりサッカーがおもしろくなると思います。

(構成:舞野隼大)

プロフィール:坪井慶介(つぼい・けいすけ)

1979年9月16日、東京生まれ。四日市中央工業高校、福岡大学を経て、2002年に浦和レッズに加入。ルーキーイヤーにリーグ戦30試合に出場し、新人王、フェアプレイ賞、ナビスコカップニューヒーロー賞を受賞し、翌年には日本代表、Jリーグベストイレブンに初選出される。06年にはFIFAワールドカップドイツ大会に出場するなど、日本代表として通算40試合に出場。15年から湘南ベルマーレ、18年からレノファ山口FCでプレーし、19年限りで現役引退。現在は日本代表、Jリーグ、プレミアリーグなどで解説者を務める傍ら、タレントとしてテレビなどのメディアにも多数出演している。