なぜ大院大高は履正社&大阪桐蔭の“大阪2強”に勝てたのか 下克上ストーリーに迫る

AI要約

大阪の強豪校を破り、大阪で頂点に立った大院大高の快進撃。辻盛監督が就任後、部員のモチベーションを高め、活気を取り戻すことで下克上ストーリーを紡いだ。

現主将の今坂幸暉内野手を中心に、改革を遂げたチーム。辻盛監督は部員の主体性を重視し、選手たちの力を引き出すことで強打のチームを育て上げた。

大阪制覇への挑戦を成功させたチームは、一切の慢心をなくし、さらなる高みを目指している。

なぜ大院大高は履正社&大阪桐蔭の“大阪2強”に勝てたのか 下克上ストーリーに迫る

 今春は大院大高が強豪ひしめく大阪で頂点に立った。4回戦で履正社、準々決勝で大阪桐蔭を撃破。なぜ、“大阪2強”の牙城を崩せたのか-。快進撃の裏には、昨年3月に就任した辻盛英一監督(48)が紡いだ下克上ストーリーがあった。

 昨年3月、辻盛監督が就任の前に同校を訪れた際、グラウンドを見渡してあぜんとした。練習に励む部員もいる傍ら、ベンチでゲームをしている部員もいた。「もうめちゃくちゃでしたよ」。大阪制覇など夢のまた夢の話だった。

 進級も危ういほどの学校生活を送っていた部員もいた。荒れ果てた野球部をどう立て直したのか-。辻盛監督はダラダラと過ごす部員に寄り添った。「そのゲーム楽しいの?」、「そういうのがはやってるんやなぁ」、「でも、野球の方が面白いと思うけどな」。優しく会話を重ね、生徒の野球へのモチベーションを高めていった。

 改革の中心となったのは、今秋ドラフト候補で現主将の今坂幸暉内野手(3年)。プロを目指して山口県から同校の門をたたくも、いつしかその志を失い、学校でも問題児扱い。「(プロ入りは)どうせ無理でしょ」。その中で、辻盛監督は本気で目指すならプロのスカウトを連れてくることを約束。そこから今坂の目の色が変わり、熱心に白球を追う姿を見て、当時2年生だった今坂を新チームの主将にすることを決断。まだ3年生がいた中でも「キャプテンになったつもりでやれ」と説いた。

 グラウンドにはリュックがきれいに並べられるようになった。「かばん並べろや!」。今坂は上級生にも遠慮することなく指摘。腐りかけていた野球熱を取り戻した今坂を筆頭に、チーム全体も活気を帯びていった。「今の状態を作るのに3年はかかると思っていた」と指揮官。予想以上に早く大阪制覇への一歩を踏み出した。

 選手の主体性を育むことをテーマとし、練習をジッと見つめる。主な指導は打撃ケージに入る前の部員にそっと一言アドバイスを送る程度。部員達はいとも簡単に160キロに設定された打撃マシンを打ち返していた。「論文などを読むのが好きなんですよ」と笑う辻盛監督は、メジャー選手などを参考にスイングプレーン(バットスイングの軌道)を研究。就任前に指揮していた大阪公立大をリーグ優勝に導いた手腕を発揮し、強打のチームを作り上げた。

 キャッチボールですらもひりついた空気感で行われ、ノックでは部員間で厳しい言葉も飛ぶ。ベンチでサボっていたかつてのナインの姿は跡形もなく消え去っていた。履正社、大阪桐蔭撃破と大阪に新たな旋風を吹かせた後も一切の慢心はなく、目標はあくまで日本一。この春は通過点に過ぎない。(デイリースポーツ・北村孝紀)