「喫煙率が下がっても肺がんが増えているからタバコは悪くない」は大間違い…多くの人が知らない喫煙のリスク

AI要約

喫煙と肺がんの関連性について解説。喫煙者は4~5倍も肺がんになりやすいことや、喫煙率の減少と肺がん死亡率の関係について説明。

インターネット上に広まる喫煙と肺がんの関連性を否定するデマについて解説。高齢化とタイムラグの影響も考慮。

喫煙が肺がんだけでなく他の病気の原因にもなることを指摘。健康に配慮しつつ個々の自己決定権も尊重されるべき。

日本人において、もっとも死亡者数の多いがんは「肺がん」であることをご存じだろうか。内科医の名取宏さんは「肺がんのリスク因子でもっとも大きいのは喫煙。ところが、そのリスクの大きさは意外と知られていない」という――。

■喫煙者は4~5倍も肺がんになりやすい

 日本人の部位別がん死亡者数の第1位は、肺がんです。肺がんになりたくない、肺がんで死にたくないのであれば、肺がんの原因について正確な情報を知っておいたほうがいいと思います。

 肺がんの原因はさまざまですが、もっとも有名なのは喫煙です。もちろん、タバコを吸わなくても肺がんになることはありますし、タバコを吸っていたからといって必ずしも肺がんになるわけではありません。でも、タバコを吸っていると、吸わない場合に比べて、肺がんになりやすくなることは確実です。喫煙の影響の大きさは肺がんのタイプ(組織型)によって異なりますが、日本人の場合、男性喫煙者は非喫煙者に比べて4~5倍、女性喫煙者は約3倍も肺がんになりやすいのです。

 2021年に発表された研究によれば、日本人男性集団において全肺がんの約60%は喫煙が原因です(※1)。喫煙が肺がんのリスク因子であることは、喫煙者と非喫煙者を比較した国内外のさまざまな研究で再現性がよく示されており、専門家の間で議論はありません。ところが、インターネット上では、なぜか喫煙と肺がんの関連を否定するデマが広まっています。

 ※1 Burden of cancer attributable to tobacco smoke in Japan in 2015

■喫煙率が下がっても肺がんが増えた理由

 喫煙と肺がんの関連を否定するデマの中で特に多いのが「喫煙率が下がっているのに肺がんが増えているので、タバコと肺がんの因果関係は疑わしい」というもの。こうしたデマに騙されないために知っておくべきポイントは、高齢化とタイムラグです。肺がん死亡者数や年齢調整をしていない粗死亡率が増加しているのは事実ですが、その主因は肺がんの罹患率も死亡率も高い高齢者の人口が増えているためです。

 高齢化の影響を取り除いた「肺がんの年齢調整死亡率」を見ると、1990年代をピークに減少しています。日本人男性の喫煙率のピークが1960年代ですから、喫煙率が減少して約30年経って肺がん死亡率が減り始めたことになります。タバコの煙に含まれる有害物質が肺の細胞にダメージを与え、がん細胞が発生し、がん組織が大きくなって死亡に至るまでには、そのくらいの時間がかかるので計算は合います。

 喫煙は、この他にも喉頭がんや舌がんなどのさまざまながん、心筋梗塞や脳血管障害や慢性閉塞性肺疾患(COPD)といった病気の原因にもなります。健康のことだけを考えればタバコを吸わないのが最善です。とはいえ、人は健康のためだけに生きているのではありません。喫煙のリスクを正確に知った上で、タバコを吸うという自己決定権も尊重されるべきです。