Twitch、DJプログラムはどのように作用する? 音楽権利・収益問題の新たな一手となるか

AI要約

ライブストリーミング配信プラットフォーム Twitchより、6月7日に「Twitch DJプログラム」(※1)が7月から8月にかけて開始することが発表された。

Twitchは音楽やDJ配信に特化したプログラムを始動させることで、音楽配信において大きな進歩が見込まれる。ただし、意見は賛否両論であり、プログラムが今後どう展開していくか注目される。

プログラムの開始に伴い、収益配分の透明性やオリジナル楽曲の利用など懸念もあるが、Twitchが様々な施策を取ることでDJや音楽業界とのパートナーシップを築き上げている。

Twitch、DJプログラムはどのように作用する? 音楽権利・収益問題の新たな一手となるか

 ライブストリーミング配信プラットフォーム Twitchより、6月7日に「Twitch DJプログラム」(※1)が7月から8月にかけて開始することが発表された。

 Twitchはゲームや音楽、スポーツなどのライブ配信を中心としたライブストリーミングプラットフォーム。近年需要が高まりつつある音楽やDJ配信にも特化しているプラットフォームでありながら、著作権やライセンスの問題で配信の在り方が大きく制限されるなど、ストリーマー(ライブ映像の配信者)にとって避けて通れない課題を抱えていた。本プログラムは、そういった様々な配信問題へ対処するために計画されたもので、ユニバーサル ミュージック グループ、ワーナーミュージック・グループ、ソニーミュージックグループなどの大手メジャーレーベルから、インディーズレーベルの世界団体Merlinまで、複数の企業と協力し、提携関係を結ぶに至ったという。

 この「Twitch DJプログラム」の始動によって、多くの楽曲を使用したDJ配信が可能になり、音楽配信において非常に大きな第一歩となることは間違いない。しかし、概要が発表された現在、SNSでもポジティブな面とネガティブな面、いずれの意見も散見されている。今はまだサービス開始前ではあるが、このプログラムが今後どのように作用し、どのように波及していくのか。音楽ライターのimdkm氏に見解を聞いた。

「まず、コロナ禍以降にライブ配信の需要が高まった流れがありますよね。同時に、Twitchのようなライブ配信に限らず音楽配信系のプラットフォームに対する公正な利益配分の要求が高まっている中で、今回の『DJプログラム』は結構思い切ったやり方で、Twitchも本格的に力を入れてきたなという印象を持ちました。利益配分やアーティスト側への還元、配信者負担のコストについて、1年間はTwitch側から補助金を提供するという措置は力技で、配信者のことも考えられていると感じます」

 権利や収益における様々なライセンスの問題への解決策を講じるために、数年にわたる話し合いを各社と続けてきたTwitch。今回発表されたトピックのひとつでもある「Twitchから1年間の補助金提供」は、参加DJがプログラムの開始時から12カ月間にわたって新たなオファー以前の支払いを一定割合(最初は100%からスタート)まで保証するというトップドオフ式で、その補助金を受け取ることができるというもの。サービスの拡大を待つ間、DJにとってこれは大きな助けとなる。これ以外の施策に対して、Twitch側はどのような意図をもって取り組んでいるのだろうか。

「Twitchが発表している施策を見る限り、Twitch自体がかなり予算や時間を割いて注力していると感じます。一つひとつの施策自体は妥当なもので、DJ配信というものを持続的に売りにできるコンテンツにするための“現実的な落とし所”をプラットフォーム側が示し、この施策に対して本気で取り組んでいく意思があるように思いますね。現在公開されている概要ページでも、配信者へのプレゼンテーションとして仕組みもわかりやすく表示されているので、DJフレンドリーに施策を進めていきたいという印象を強く受けました」

 本プログラムの開始は7月から8月を予定している。開始前ではあるが、現在公開されているトピックを元に、どのようなメリットやデメリットが想定し得るか、考えてみたい。

 まずは収益配分についてだ。チャンネルを通して楽曲が使用されることにより、収益の一部が音楽の権利保有者へ支払われる。このコストは条件によって異なるものの、Twitchとストリーマーが共同で負担することになる。

「ポジティブな面としては、配信者(ストリーマー)が法的リスクを負うことなく配信できるということが最も大きな利点だと考えられます。それに加えて、権利者側もDJに配信で曲をかけてもらうことで収益を得られる機会が増える。つまり、配信者が自分のDJプレイでマネタイズする可能性が出てくると同時に、楽曲所有者や権利者はDJに楽曲を使ってもらう形のマーケティング施策を打てるようになる。ビジネスとして考えれば、基本的にはWin-Winだと思っていいのではないでしょうか」

 一方、懸念点も考え出すとかなり山積みとなっている。まずは、収益配分の透明性がどこまで確保されるのか。すでにローンチされている様々なプラットフォームは、実際に収益の還元が非常に低いということでアーティストや権利者側が各プラットフォームサイドに働きかけをしているような状況もあることを踏まえると、そういったプラットフォームのひとつであるTwitchもまた、同様の視点を持つ必要があるのだ。

「収益の配分の方法がどこまで公平に行われていくのかは、実際の施策が始まってからも継続して注意して見ていく方がいいのではないかと思います。ただ、これはTwitchの今回の施策に限らず、プラットフォーム全般に言えることですね」

 今回Twitchが音楽業界と提携を結べたことは大きなトピックであり、各所へのメリットも大きい。ただ、このプログラムに参加することで発信できる楽曲への縛りが発生し、DJの自由度が低くなる可能性も想定される。

「プログラムに参加しているレーベルの音源を使ったことでDJへの収益が発生するという構造には、そこに何らかの不平等が生じる可能性がなくもない。『カタログに載っているからその曲を使おう』というかたちで、リスクヘッジのために自らの選曲の方向性が変わっていくようなことがあるかもしれませんよね。もっとも、このあたりは、プログラムがどれくらい柔軟性を持っているかに関わってくる問題だと思います。例えば、特定の楽曲がカタログに含まれていなかったとしても、レーベル側にカルチャーへ対する理解がある場合は寛容に対応してくれるかもしれない。とはいえ、レーベル側としてややネガティブに考えると、『このプログラムに参加しなければならない』という半強制的な働きかけの方向になる可能性もありますね。逆に「使ってくれるな」と明示的に拒絶する例も出てくるかもしれない。それこそ、Apple MusicやSpotifyのサービスが始まった頃の大手レーベルやアーティストの音源の提供/非提供といった駆け引きに似たところがあるのではないでしょうか」

 また、プログラムの概要には「リリース前の音楽を再生しないでください」という記載があることにもフォーカスしていく。

「当然のことだと思われるかもしれませんが、例えばダンスミュージックのDJコミュニティなどでは、場合によっては未発表の楽曲をDJ間やプロデューサー間でシェアしてプレイすることで曲自体の露出を増やし、コミュニティでサポートしていくことも少なくありません。そういった点で、規定とはずれる部分が出てくると思います。ヒット曲のオリジナルのエディットを自分のセットだけのエクスクルーシブなトラックとして使用することもよくありますが、その場合、この規定がどのように当てはまるのか――現状ではどのように制度が運用されるか想像するしかないので、考え出すとキリがない問題でもあります」