「いつの日か主役を」と思い60年…平泉成80歳、映画初主演に「たかが映画じゃないですよね」

AI要約

傘寿を迎えた平泉成が、映画初主演を果たした。彼は無口で武骨だが心優しいカメラマンを演じ、被写体とのつながりを大切にする。80歳になった彼にとっては驚きと喜びの役どころだった。

平泉成は脇役として映画界で活躍してきたが、主役としての機会は少なかった。しかし、80歳に近づくなかで映画初主演の話が舞い込み、最後のチャンスとして受け入れた。

映画では写真を通じて人間関係や過去を描き、平泉成自身もその内容に共感する瞬間があった。鮫島というカメラマンを演じる役は、自分にとって非常に理解しやすく納得のいくものだった。

 傘寿を迎えた平泉成が、公開中の「明日を綴(つづ)る写真館」で映画初主演を果たした。演じるのは無口で武骨だが心優しいカメラマン。被写体となる人々に親身に接し、思いのにじむ写真を撮り続ける役だ。「自分とクロスするところがあって、これならやれるだろうと思った」と振り返った。(近藤孝)

 1944年生まれで、今月2日に80歳になったばかり。64年に映画界に入り、三隅研次、増村保造、北野武、森田芳光ら、そうそうたる監督の映画に出演。中間管理職や夫、父親など、ずっしりとして温かみのある役を中心に様々な人物を演じてきたが、いずれも主役でなく脇役として作品を下支えしてきた。

 「いつの日か、主役を張ることがあるかもしれないと思って一生懸命やってきました。でもね、80も近くなると『もうないな』と思い始めた。そうしたらこの映画の話が来て。驚いたし、うれしかったですね」

 とはいえ、最後のチャンスとすぐに飛びついたわけではない。「主役となると、それなりの責任がある。自分が自信をもって演じることができる役か、自分に向いた役かどうかを、脚本を読んでチェックしました」

 平泉が演じるカメラマン、鮫島はさびれた写真館を営んでいるが、彼の撮った人間味のある写真にひかれる人も多かった。気鋭のカメラマンの太一(佐野晶哉)もその一人で、弟子入りを志願し一緒に仕事を始める。

 鮫島という男を「長く生きてきて厳しさも味わってきた人」と受けとめ、「一つの仕事を全うするのは、カメラマンも俳優も同じだから、私にとって非常に分かりやすく納得のいく役」と思い、出演を決めた。

 映画の中で鮫島は何度か、写真についての思いを語る。「その通りだなと思うし、セリフをしゃべっているのが平泉成か鮫島か分からなくなるような瞬間もあった」

 例えば、家族を撮った写真は、たかが家族写真でなく、家族の歴史なのだ、といった内容のセリフがある。「写真」を「映画」に置き換えて自身の過去を振り返り、「たかが映画じゃないですよね」とかみしめる。